亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

何処から現れたのか。
いつの間にかグランカの右隣りには、別のバジリスクの姿があった。
風に煽られてちらほらと見える手綱から、それが飼い馴らされたバジリスクであることは一目瞭然だ。

レヴィが飛び降りると同時にそのバジリスクが砂中から突然現れ、タイミングよく彼を背に乗せたのだ。
大きな赤いワニの上で手綱を掴むと、レヴィはバジリスクの速度を調整しつつロキに並んだ。

二匹のバジリスクが揃って泳ぐ様は、傍から見れば物凄い速さの砂嵐が地を駆けている様にしか見えない。



「集会は日暮れ時だったな」

「余裕余裕、飛ばせば間に合うだろ。日もまだ高いしな。遅刻魔の俺達が時間に間に合ったら、オルディオもリディアもびっくりだろうな」


そう言って見上げた空は、夕闇の気配を漂わせながらも、まだまだ昼間の明るさを保っている。
集会の行われる隠れ家まではまだ相当の距離があるが、道草を食わない限りは間に合うだろう。

今日は仲間の…限定して言えば、一人の少女の愚痴を聞かないで済むに違いない。



速度を緩める事なく、見た目だけではなくそれこそ風の様に二匹のワニは砂漠を泳いでいく。
この広大なエデ砂漠のど真ん中辺りに来れば、影一つ見当たらない、無を極めた殺風景が広がっている。
と言うのも、砂漠を横断する者は皆、人里のある砂漠の端側を移動するため、用が無い限りは中央付近を歩こうとする者など皆無だ。

人の手が入っていない砂漠の真ん中は、正真正銘の獣道。
ここを住家とするのはバジリスクや砂食いといった猛獣、魔獣ばかりで、危険地帯でもある。

そして危険であるが故に、反国家組織側からすれば身を潜めるには最適な安全地帯でもあるのだ。



首都から出た後、少しの間だけ追っ手の気配があったものの、エデ砂漠の中に入ってしまってからはいつの間にかそれも途絶えてしまっている。

敵方の苦虫を噛み潰した様な表情が、容易に想像出来るというものだ。







頭上から孤を描きながら落ちていく赤い太陽の歩みは、着実に地平線の彼方に向かっていた。