亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


見る見る内に積まれていく虫の息の敵兵士達に顔をしかめつつも、ロキは湧いてくる敵を薙ぎ倒していった。
赤い砂地に人間やらナイフやらの障害物が埋もれていく。


最初よりも勢いの無くなった敵勢の動きを確認すると、ロキは甲高い指笛を鳴らした。
行くあての無い一筋の音色は雑音の中を掻い潜り、広範囲に響き渡る。
何事かと一瞬戸惑いを見せる兵士達だったが…彼等の疑問は形となって現れた。

指笛が天高く昇ってから本の数秒足らず。
微かな地響きを靴の底から感じたかと思えば…突如、ロキを中心に目下の砂漠が盛り上がった。
斬りかかろうとした兵士達は、目前に現れた背丈よりも高い砂の山に思わず足を止める。そして重力に従ってサラサラと流れ落ちる砂の滝の内から、ギョロリと瞼を開いた大きな目玉が覗いた直後、周囲の敵は強大な衝撃によって吹き飛ばされた。


砂の山から現れたのは、赤い大きな岩山…否、この国に生息する猛獣、バジリスクだった。
鋭利な爪を生やした太い四肢で地を叩き、荒い鼻息で砂埃を巻き起こす。凹凸の激しい岩肌の長い尾が、背後で立ち竦んでいた敵を払い除ける。
敵陣のど真ん中に現れたバジリスクに、背に乗っていたロキは口笛を吹きながら声をかけた。

「サンキュー、グランカ。良い子だ」

グランカという名のバジリスクは、主人のロキを見上げて応える様に低く唸る。敵の刃の鈍い光に怯える事も無く、グランカはその巨体を俊敏に動かして北門に向き直った。
猛牛の様に後ろ足で地を蹴って勢いを付けるグランカの背に、レヴィがすかさず飛び乗る。

前方には仁王立ちする巨大な北門。表面が滑らかな鉄のそれは、よじ登るにも一苦労の壁だが…鼻息の荒いグランカの矛先は明らかにその壁に向いている。全長十メートルの巨大なワニは、どうやら飛び越える気の様だ。

「…超えられるか?」

「楽勝」

レヴィの問いに何の躊躇いも無くロキが軽々と言い切った直後、何の前触れも無く、グランカは地を蹴った。



巨大な岩山が走る姿は、異質だとか奇妙だとかを通り越して恐怖さえも覚えさせるものだった。
グランカが一歩前進する度に、小規模の砂嵐が生じる。それが外見にはそぐわない目にも止まらぬ速さで疾走するのだから、その場にいる敵兵士達は次々に風にあおられて倒れていく。