亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


白槍と黒槍が、首都にいる。

その情報はあっという間に広い街の隅から隅まで行き渡った様で、レヴィとロキが北門に着いた時には、当たり前だがかなりの数のバリアン兵士が配備されていた。


高い街の壁の内外には、ズラリと槍を構えた兵士が目を光らせている。
白だの黒だのとあちこちで叫んでいるのを耳にしながら、二人は物影から物影へと移動する。


厳重な警戒態勢が敷かれた北門。
その張り詰めた緊張感を肌に感じれば背を向けたくなるが、何処の出入口もきっと同じ様なものだろう。
どうやっても真っ向から敵にぶち当たるしかない切羽詰まった状況なのだが…当人達は冷や汗一つ流さず、やけに余裕の涼しげな表情だ。

「…壁の高さは…そこそこあるな」

「そこの荷車を踏み台にすれば楽勝だろ。とりあえず、門前の邪魔な兵士を片付けるのが先決だな………よし、俺は行くぞ」

軽い調子でそう言うと、ロキはいつの間にか手にしていた槍をレヴィに投げて寄越した。
少々古いそれは、手入れも行き届いており、加えてよく使いこなされている。


互いに視線で合図を送ると、影から明るい日の下へ…マントを羽織り直し、ロキが先頭に出た。

突如…人通りの多い道の横手から、こちらに向かって突き進んでくる真っ黒なシルエットを目にした兵士達は、揃って反射的に槍を構えた。
それが黒槍のロキであると認識するのに、時間はかからなかった。




「―――出たぞ!」







門前に響き渡った仲間の声に、その場の兵士全員が目を向けた直後……互いに相当な距離があったにも関わらず、僅か数秒足らずでロキは一気に距離を詰めていた。

臨戦体勢に入っていた筈の相手が一瞬怯んでしまう程、その動きは早い。
どうかすれば目で追うこともままならない駿足で、ロキの影は横一列に並ぶ兵士達を通り抜け、背後に回っていた。



そしてそのまま、慌てて振り返ろうとする数人の兵士らの背に向かって、槍……ではなく、強烈な蹴りをかました。