亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

反国家組織『三槍』の長、老長オルディオの下には現在、白槍と黒槍の二つの武力勢力がある。

各勢力の長は、“白槍”と称されるレヴィ。そして“黒槍”のロキだ。


レヴィの顔は元々、バリアン国家に既にばれている。
手配書には堂々とレヴィの人相が描かれているのだが、ロキの顔ははっきりとは知られていない。
敵方が入手しているのはロキの身の丈や声といった、何ら特徴も分かっていないアバウトな情報だけだ。

それだけの情報なのに、黒槍であると見抜いたあのバリアン兵士はある意味凄いかもしれない。

とにかく、顔を知られていないのは非常に好都合である。
出来る限り顔を表に出さない様にするため、常にロキは全身黒づくめだ。


…だが、レヴィの言う様にフェンネルのあの男に顔を見られていたとすれば…少々、厄介だ。
バリアン兵士ではなかっただけ幸いだったと…安堵していいのだろうか。






「………まぁ、大丈夫だろう。根拠は無いがな」

何が何処まで不安な要素なのか、追われる身からすればそれは無限にある様に思えて仕方ない。考えるのも億劫だとばかりに最後にそう言って、レヴィは前に向き直った。

首都でも指折りの美しい娼婦達がたむろする路地を抜け、角の小さな酒屋を追い越し、二人は息の合った動きで路地の急カーブに入っていった。

















野次馬のざわめきにバリアン兵士達の大声が加わり、更に騒然となってしまった門前で……フェンネルの使者達は腕を組んでじっと佇むばかりだった。

敵意の矛先があっという間に第三者に移ってしまったバリアン兵士達は、自分達に見向きもしない。