亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~




バリアン国民の大半が、自分達の国に対し恐怖を感じ……そして、不満を抱いている。

自然、そんな彼等の支持は、反国家思想に集中する。

白槍と黒槍という、国民の希望を抱えた反国家組織に味方をするのは、当然の事なのだ。
救世主となるかもしれない彼等が不利な立場に追われれば、民衆は大胆に手助けをするわけではないが……さりげなく、逃亡や襲撃に手を貸してくれる事が多い。

今回の逃亡においても民衆は集団で壁となり、彼等の逃亡に一役買ったのだ。




野次馬の群集からなんとか抜け出した二人の背中に、何処の誰なのかも分からないが、「北の門から出な!」という有り難い一声が投げられた。



そしてそのまま、並んで駆け抜ける二人の進路は北へと向けられる。

多くの通行人や建ち並ぶ店、ゆっくりと横断する荷車を追い越しながら、追っ手の気配を探りつつロキは口を開く。


「ああああああ嫌な予感がしてたんだ!お前が首都に立ち寄りたいとか言った時点で嫌な予感はしてたんだ!どうしてそんなにちょっかいを出すのが好きなんだよ!白槍さんよ!!改めて思う、俺の勘ってすげぇ!」

「衝動的なものだから仕方ないだろ。…外に警備の手が回っているだろうな。とりあえず北の門までこのまま走るぞ」



とにかく、この首都から抜け出すのが最良だ。
北の門は警備が薄い。
足を止めずにこのまま突っ走る二人の前を、人々は驚いて空けていく。



「………さっき俺達を見付けた、フェンネルからの使者の男…お前見たか?」

黙々とただ走っていた二人だったが、不意にいつもは寡黙のレヴィが口を開いた。
珍しい…と、隣を走るロキはマントの内で大きく目を見開く。


「ああ…見たさ。人混みでよく見えなかったけどな」

「あの男………あんなに遠かったのに…あの距離で俺を観察していた。目も合った。それも真っ直ぐな。………恐らく、顔をしっかりと見られたな。…ロキ、お前もついでに見られたと思うぜ。マントが風で煽られて顔が少し見えていたからな」

「げっ……マジかよ」

ロキは慌てて首に巻いていたバンダナで顔を覆い直した。