―――城…というにはあまりにも険しく、高貴というよりも荒々しく、様式も何もへったくれもない岩山の如き外観。

そんな鍾乳洞の一角を削り取った様な、天高くそびえ立つ白い岩山は、誰が何と言おうとこの砂漠の国の城だ。



豪華絢爛且つ華麗な外観を持つ異国の城とは違い、その粗暴さから滲み出る威圧感の塊の様な城だが…。
城のある丘から少し離れた場所に位置する首都の賑わい振りは、異国とそれと何ら変わらない。


各々が数多の目的で集う首都は、朝だろうが昼だろうがいつも人がひしめき合い、ゴミの様に溢れている。
このバリアンには実はこんなにも国民がいたのかと、改めて思うくらいだ。


首都に集う人間の大半は、街を点々とさ迷う旅人や商人、出稼ぎに来た女子供の類いばかりだ。
街の中央に真っ直ぐ伸びる大きな道には人の群れが往来し、その両端に隙間無く並ぶ店舗からは店主の活気溢れる呼び掛けが飛ぶ。



時折何処かで喧嘩が始まったり、堂々と見るからに危ない薬を売買していたり、道のど真ん中で商品の競売を始めたりと…首都は全てが自由奔放に動いている。


何処に行ってもとにかく騒がしい首都。

人の歩みが止まらぬ川の如き巨大な街。






それが毎日の光景であり、変わらぬ首都の姿なのだが。














……その日、往来を行き来する人々の足は嘘の様に止まり、店主らの掛け声はなりを潜め、そしてほとんどの人間の視線が…とある場所一点に集中していた。
人々はひそひそと囁き声を交わすが、大衆である時点でそれは単なるざわめきでしかない。

耳を澄ませば容易に聞き取る事が出来る声量で、一点を見詰める彼等は口を開き続ける。















「…門前にいるバリアン兵士のあの数は何だ?…あちこち睨みやがって…おお怖い」

「理由は簡単さ。よく見てみなよ。……バリアン兵士とは違う人間が、ちらほらといるだろう?」

「…王様に客人かい?見慣れない連中だが…………いや、まさか」








「そのまさかさ。フェンネルの使者が訪問中だとよ」