亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~



「…お互い暇じゃねえんだからさ…そんな物騒な獲物振り回すのはそろそろ終いにしようや。…可愛い顔が台無しだぜ?」

「そう言えば女が恥ずかしがって黙るとでも思ってんのか優男を装った暗愚魯鈍の阿呆んだら!!ああ!?馬っ鹿じゃないの?馬鹿じゃないの?女舐めるんじゃないわよ!!」

「うわっ…すげえヒステリックに言い返された。もう女を褒めるの止めよ。…おい、目。目。淑女に有るまじき目付きになってんぞ!血走ってるって!……ああほら、これ!これ見ろ!文だぞ文!!見えるか文だぞ!」


これ以上の延長戦は自分にとっても彼女の世間体にとっても良くない。
冷や汗の流れるやけに冷静な頭で判断すると、ダンテはもたもたとマントの内から筒状に包まれた文を取り出し、これが目に入らぬかと彼女の目前に突きつけた。

ぐるぐると麻糸で縛られたその文は、果たして効果は抜群だったらしい。

見るや否や、殺人鬼の如き形相だったドールの顔はスッと…まるで今までのは演技だったとでも言わんばかりにえらくあっさりと淑女ドール嬢のそれへと変わった。
知っていたけれど、女ってやっぱり怖い。

「あら。そういうブツがあるならお喋りに時間を割こうとせずにさっさと渡しなさいな。まどろっこしい男ね」

構えていた鎚を下ろして軽い地響きを立たせると、ため息を吐きながらドールは投げ渡された文を受け取った。

「最近は伝言がほとんどで、こんな形式張った文なんてわざわざよこさなかったじゃないの。急にどうして…」

そう言いながらちらりと手元の文に視線を落としたドールだったが、巻き付いた麻糸の下にちらりと覗く、弓を象ったような珍しい焼印を見つけた途端、眉をひそめた彼女は思わず言葉を区切った。

弓を象った古めかしい焼印。それは狩人の印であり、これは狩人の中でも限られた人間しか扱ってはいけないとされているものだ。その焼印があるということはつまり。

「…………これは確かに、伝言なんか使えないわね。送り主が送り主なだけに…」

改めてその文を丁寧に持ち直すと、ドールは姿勢を正してダンテに向き直った。

「…デイファレトを代表して、このドール=ラトゥールが確かに拝受致しました。文の拝見、及び返事があることを考慮し、ダンテレスト=コウ殿にはしばしお待ち願いたい。…………すっごい嫌だけど」

「最後に本音を混ぜるな本音を」