ドールが敵意どころか明らかな殺意をがんがん向ける青年、ダンテレスト=コウことダンテ。
見てのとおりのただの若い好青年な狩人であるが、城の人間であるドール達にとっては知り合いと呼べる数少ない狩人の一人だ。
三年前のデイファレトの王政復古の際に訪れた災厄では、国中の街に獣の群れが襲撃してきたが、閉鎖的だった狩人達が自ら弓を番い、獣の牙から民を守り抜いた。
その出来事以来、国と狩人…両者の溝が埋まる…という劇的な変化は無いものの、文などの連絡手段で声をかければそれなりに応じるくらいにはなった。
そしてこのダンテは、外と関わりを持ちたがらない彼等の連絡役、言わば外交人的な役割を担っている。
ダンテ自身、自分の母親と今は亡きレトの父親同士が友の関係であったこともあるし、レトとも浅からぬ縁がある故、赤の他人では無い分、レトのいる城に足を踏み入れることに特に無駄な警戒心を抱く事もない。
他の狩人に比べて比較的フレンドリーに接することが出来る貴重な人物であるし、狩人の若者の中では優れた戦闘力を持つ将来有望な男として、縁談に関しては引く手数多だとか何とからしい、話だけ聞けば好印象が目立つ人物だが。…だが。
…人間誰しも、その中身に致命的な点はあるというものだ。
ドールに天敵扱いされ、果てはあのノアにさえいつ殺してしまおうかと真剣に考え込まれているなど、当の本人は何と無く察してはいても理由までは分かっていないだろう。
視界に入るだけでも不愉快になるというのに、不意打ちとばかりに素早い身のこなしでお見舞いした兜割りも、寸でのところで白刃取りのように受け止められてしまったことで、ドールの機嫌は更に急降下、いや奈落の底を突き破って更に地獄を深くした。
「……毎度ながら…この暴力的な挨拶は、いつになったら、止めてくれるんだ、よっ…!」
来城の度に出迎えという名のドール戦があり、望んでもいないのに両者の間に戦いのゴングが鳴り響く。
ドールのおかげで鎚使いとの戦法を学べた様なものだ。
一体俺は何を試されているんだとダンテはげんなりしながら、頭上で受け止めていた重い鎚を脇に退かして軌道をずらした。
子を生む女性は神聖なものであり、守るべき者…と幼い頃から母に教えられてきたため、このドールに刃を向けることは無いが、ここまで攻撃されるともうこの小娘は例外でもいいんじゃないかなと疲れた頭の片隅でダンテは思った。


