亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~



突き刺さる少女の殺気が本気であると本能的に察知し、若干後退する。

狩人の若者…青年は、危害も加えなければ何もしませんよと両手を上げながら、面倒くせえな…と小さく溜息を吐いた。
ピリピリを通り越した強烈な緊張感を与えてくる少女は、その細腕からは考えられない程の巨大な鎚を握りしめ、威嚇するかのように鎚で地面を突いていた。

ドン、ドン…とリズミカルな思い音色と共にその一帯に微弱な地響きが鳴り続け、足元の小石が先程からずっと小さくジャンプをしているのをなんとなく見下ろしていると、無言を貫いていた少女がようやくその小さな口を開いた。



「……散歩するにしてはちょっと場違いだと思わなくて?森に帰れ」

「開口一番でそれか…」

やれやれと苦笑混じりに目を逸らせば、少女からの殺気が幾分増したように感じた。

「第一…散歩で城の前を通ったらいけないのか?…狩人差別じゃないのかそれ」

「……この城は今や普通に馬車も行き交うし、使用人も出入りするし、頭上はアルバスの散歩ルートでもあるし、中庭に住み着いた兎の親子だって横断していくし、羽虫だって通り越していくわ。狩人が通ったって勿論、別に何も問題無いわ」

「なら、問題無いじゃな…」

「でもあんたは駄目だって言ってるのよいい加減察しろこのクズ男!」


青年が言い終える直前に少女の怒鳴り声がそれを遮ったと同時に、どでかい鎚が目にも留まらぬ速さで空を切った。ブンッ…!と恐ろしい空気抵抗の重い風の音が流れ、1メートルを超える鉄の塊が青年の頭を吹き飛ばした、かに思えたが、青年が寸でのところで躱した事によりそんなグロテスクな景色にはならなかった。


数メートル手前まで後退した青年に、少女はギリッ…と奥歯を噛み締め、ゆらりとした動きで鎚を構え直す。
殺しにかかってることが丸分かりな相手に対し、青年は冷や汗はかきつつも特におくびれた様子も無く慣れた様子で自分よりも背の低い彼女を笑みを浮かべて見下ろした。

「まあ、そうかっかするなって。散歩じゃなくて、用があって来たんだ。じゃなきゃわざわざ狩人が城なんかに来るわけ無いだろう?」

「…そうねダンテレスト=コウは入城禁止令が出ているもの。敷地内で見つけ次第痛めつけて森に帰すようにするのが決まりだから、本当にのこのこ散歩なんかで来てたら愚か者以外の何者でもないわね」

「前から聞きたかったんだけど、その禁止令についてどうして出来上がったのかとか、俺本人詳しく聞いてねえんだけど」

そう言って腕を組み、目の前の雄々しく鎚を肩に背負う少女…ドールを、青年ダンテはせせら笑った。