亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


怖くて堪らないのだ。
無いかもしれない明日が続く日々が怖いのだ。
復讐に燃える一方で、その刃を誰かに突き刺すのが恐ろしいのだ。

死ぬのが怖い、人が死ぬのが怖い、復讐をしたい、復讐が怖い。
三槍である自分を見詰めながら、ライは思うのだ。

僕は、何がしたいのだろう。



――『ライ、あんたに剣は似合わないわ』



(――長…)

かつての主であり、今は無き赤槍を統べていた小さな少女の嘲笑染みた言葉が脳裏を過ぎると共に、ライは大きく咳き込んだ。
生半可な覚悟の自分は、とてもじゃないがこの世界で生き残れる筈が無い。訪れる死期は早く、そして呆気なく終わるのだと思っていた。湧き水の様に吹き出る恐怖心が止まらない限り、僕は弱いままで、永遠に子供のままなのだと。

上体を起こそうとすれば、脇腹に固いブーツのつま先で弱い蹴りを入れられ、ライの身体はそれだけで崩れ落ちる。
自分の吐瀉物と切れた唇から滲み出た血の臭いが、言い知れぬ絶望感を生み、頭の中を掻き乱す。
怪我は重傷ではない。まだ動ける。生きている。まだ死んでなどいない。
…分かっているのに、身体は思うように動かない。

怖くて、怖くて、怖くて。
生への執着さえも、恐怖を前に身を潜ませてしまっている。

震える眼で、ライは男を見上げたまま…微動だに出来ずにいた。
振り下ろされようとしている鈍い光沢に、身体は痛みを言い訳に竦んでしまっていた。

死ぬのだろうか、死ぬのだろうか、死ぬのだろうか、死ぬのだろうか、死にたくないが。

どうにも出来ないから、仕方ないのかもしれない。










「ライ」