亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

多くの兄弟に囲まれて育った過去から、自分は無意識にフォトという少年をまるで本物の弟の様に感じ、接し、位置づけていたのかもしれない。
彼の大胆不敵な行動には毎度不安を感じていたし、それを心配する彼の母親同様に本当は止めて欲しいと思っていた。止めて欲しい半面で、思いがけない情報を持ってきてくれる彼の手腕には驚かされ、買っていた。

一人の人間としてではなく、三槍の一人として見ていたのは、彼の仕事の成果だけであって。
目先の欲に捉われてばかりで、結局彼の安否を気にする事など後回しになっていたのかもしれない。ようやく彼に歯止めをかけた自分の行動は、遅すぎたのだ。
最後に会ったのは、今日だった筈だ。夕暮れ時、ユアンやサナ等とテーブルを囲んで、そこに彼もいて。相変わらずの無邪気っぷりで。


時間にしてみれば本の、数時間前だったのに。


「―――……フォト…」


暗闇の砂漠。息を切らして唖然と佇むライの渇いた唇が、その名を震える声でポツリと紡いだ。
闇に慣れた双眸が、目前の…捜し求めていた人物のいる光景を映し続ける。そこに、少年はいた。確かに存在した。しかしながら、頭に浮かぶ記憶に新しい情景の中の彼とは、随分と様変わりしていた。


砂地に横たわる小さなシルエットが一つ。
散々引きずり回されたのだろう、着衣の端々は破け、力無く投げ出された手足には痛々しい痣が浮かんでいた。

ピクリとも動かない、見慣れた少年の無残な姿に、ライの動機は早くなる。
頭の中の奥の奥。自分でも開け方を忘れていた記憶の箱の隙間から、古い景色があふれ出す。弾けた膿からどろりと噴出すそれの様に。
横たわるシルエットに、古い情景が。血塗れの、幼い兄弟達の、姿が、重なって。


サッと体中が冷えていくのと同時に、目の前が夜の闇以上の黒で塗りつぶされる様な感覚に溺れそうになった時だった。

仰向けに横たわるフォトの、固く閉じられているかに思えた瞼が……微かにだが、小刻みに動いたように見えたのだ。
願望から出た錯覚ではない。そう確信したと同時に、ライはハッと我に返り、フォトの元へと駆け寄った。

「…フォト!」