興味無さげに足元の死体から視線を外すと、ユアンは表面が傷だらけのスーツケースを持ち…そのまま今度は、目を押さえてうずくまっている敵の方へと歩み寄った。
投げたダガーで片目を潰された男は、直ぐ傍らに立つユアンにも気付いていないのか、その場で苦痛に呻きながら膝を突いていた。
痛みに耐えようと嗚咽を漏らす男を、ユアンは何の感情も見いだせない隻眼でぼんやりと見下ろす。
「――…貴方達は、夕時にお会いした迷惑なバリアン兵士の方々でしょう?…こんな夜に、こんな砂漠のど真ん中で…お勤めご苦労様ですね…」
「……う……くそっ…」
「こうやって偶然また再会するのも何かのご縁かもしれませんがねー……これが貴方達の仕事だとしても…僕等を襲うのは筋違いでしょうよ」
「…くそっ……くそっ……金医者め…!」
「ええ、金医者ですけれど。……もうすぐ砂喰いの群れが貴方達を骨の髄までしゃぶりつきにいらっしゃるでしょうから……先に楽にしてあげましょう。医者らしく、慈悲をあげましょうねー。………あー、でも…」
…スッと、ユアンは手元の古いスーツケースを掲げた。
表面の革生地も傷だらけで、日に焼けてすっかり色褪せたその年期の入った鞄から、微かに…しかし深く滲み込んだ臭いを、ユアンの肩口から覗いていたティーが嗅ぎ取った。
苦い、臭い。
人間の鉄の臭い。
鼻を突く嗅ぎ慣れた臭い。
狩りで捕らえた鼠の腹に、かじりついた時の、あの。
「……すんなりとは楽にしてあげません。…僕は今…いたく機嫌が悪い」
にっこりと隻眼が笑みを浮かべたと同時に、スーツケースが風を切る。
途端、鈍い音が辺りに散ったが、同時にガーラが相手のバジリスクの喉元に牙を立てた生々しく凄まじい鳴き声によって、すぐさま掻き消されてしまった。
固い頑丈なスーツケースが目下の男の頭に、何度も何度も何度も振り下ろされていくのを、ティーはじっと凝視していた。
時折飛び散る血飛沫も、貪欲な砂漠がただただ飲み干していった。
投げたダガーで片目を潰された男は、直ぐ傍らに立つユアンにも気付いていないのか、その場で苦痛に呻きながら膝を突いていた。
痛みに耐えようと嗚咽を漏らす男を、ユアンは何の感情も見いだせない隻眼でぼんやりと見下ろす。
「――…貴方達は、夕時にお会いした迷惑なバリアン兵士の方々でしょう?…こんな夜に、こんな砂漠のど真ん中で…お勤めご苦労様ですね…」
「……う……くそっ…」
「こうやって偶然また再会するのも何かのご縁かもしれませんがねー……これが貴方達の仕事だとしても…僕等を襲うのは筋違いでしょうよ」
「…くそっ……くそっ……金医者め…!」
「ええ、金医者ですけれど。……もうすぐ砂喰いの群れが貴方達を骨の髄までしゃぶりつきにいらっしゃるでしょうから……先に楽にしてあげましょう。医者らしく、慈悲をあげましょうねー。………あー、でも…」
…スッと、ユアンは手元の古いスーツケースを掲げた。
表面の革生地も傷だらけで、日に焼けてすっかり色褪せたその年期の入った鞄から、微かに…しかし深く滲み込んだ臭いを、ユアンの肩口から覗いていたティーが嗅ぎ取った。
苦い、臭い。
人間の鉄の臭い。
鼻を突く嗅ぎ慣れた臭い。
狩りで捕らえた鼠の腹に、かじりついた時の、あの。
「……すんなりとは楽にしてあげません。…僕は今…いたく機嫌が悪い」
にっこりと隻眼が笑みを浮かべたと同時に、スーツケースが風を切る。
途端、鈍い音が辺りに散ったが、同時にガーラが相手のバジリスクの喉元に牙を立てた生々しく凄まじい鳴き声によって、すぐさま掻き消されてしまった。
固い頑丈なスーツケースが目下の男の頭に、何度も何度も何度も振り下ろされていくのを、ティーはじっと凝視していた。
時折飛び散る血飛沫も、貪欲な砂漠がただただ飲み干していった。


