亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

この広大なエデ砂漠は、敵地でもある。バリアン国家の馬車や荷車と鉢合わせになる事など珍しくもないが…問題は、何故この荷車に限って砂喰いの群れが寄って集って襲撃したのか、である。

(…こんな大群での襲撃…そうそうあるものじゃない。……バリアン兵士が何かした、とか…?………でも、バリアン側も砂喰いの危険性なんか重々承知している筈だし…)

わざわざ挑発めいた事をするだろうか?……いや、これも考えにくい。



…となると、ここはやはり。




「………積み荷の方に問題あり…か」

砂喰いの執着の矛先は、やはり荷車ではなく、且つバリアン兵士でもなく……その彼らが運んでいたであろう、中の積み荷が一番可能性が高い。

バリアン国家は、密売などといった裏商売に平然と手を出している。そこらの悪商人と取引している姿を、首都やその近辺の街で見かけることが多い。
一体、どんな取引をしているのか。反国家組織側にとっても、決して良いものではない…むしろ悪いものには違いない。

以前にも、三槍との次の衝突に備えて、武器の売買を頻繁に行っていると小耳に挟んだ事がある。事前に阻止することが出来れば良いのだが、いつ何処で交わされているかまでは分からない。
あまりにも徹底されたバリアン側の情報の封鎖に、三槍の中でも次第に一つの疑惑が浮かび上がっている。




裏切り者が、いるのではないか…と。






(もしかすると、積み荷は武器売買に関係するものかも…)

そんな期待を胸に、ライは未だに荷車に齧りつく砂喰いに恐る恐る近付いた。荷車の後方に回ると、鎖でがんじがらめにされた小さな木戸が、ライを迎えた。
その積み荷を手に入れるには木戸を開けばいいなどと、少々知能の低い砂喰いには分かっていない様で、ただひたすら厚い壁を爪で引っ掻いている。

すぐ足元で、折れた車輪の軸の部分を齧っている数匹の砂喰いをそっと跨いで通り過ぎ、ライは木戸の目の前にまで辿り着いた。

…周りは凶暴な砂喰いの群れに囲まれた状態。後にも先にもこんな寿命の縮まる立場にはなるものかと誓いながら、そっと鎖に手を伸ばす。