…迫り来る刃がライの胸を貫くまで、あと数十センチという時。
ようやく敵との距離に気が付いたライが敵に向き直った直後……先程宙を舞って何処かに飛んでいった筈の見慣れた自分のダガーが、目の前の敵の顔面に勢いよく突き刺さった。
視界の端から真っ直ぐ飛んできたそれは敵の片目に命中しており、ライの目と鼻の先で、顔からダガーを生やした巨体が崩れ落ちる。
何故ダガーが?何処から?…などと浮上する疑問を抱きながら、呆然と地にうずくまる敵を見下ろしていると……半ば怒鳴り声に近いユアンの声が、ライを我に返させた。
「――止まるな!動きなさい!…ここは任せて、君は、あの子を…!」
愛用の古びたスーツケースを盾に敵の剣を防ぎながら、ユアンは叫んでいた。
…恐らくダガーを投げたのは彼だろう。
ユアン一人にこの場を任せるのはどうかと思ったが、彼の有無を言わせぬ隻眼と、悲鳴が聞こえた方向を指差す姿に従い、ライは無言で何度も頷いてその場に背を向けて走り出した。
砂簿が舞い散る中では二匹のバジリスクが噛みつき合い、互いの息の根を止めようと野生の本能のままに争っている。
長い尾で砂が叩かれ、掻き分けられていく中を上手く潜り抜けて進んでいくライを…残されたサナは何を思ったのか、闇夜に消えていく背を求めるかの様に、相変わらずの覚束無い足取りで後を追った。
フラフラと、しかし彼女にしては早い歩みで。
「――…サナ君…!………本当にライ君にべったりですね……まるで雛鳥だ。………貴方もそう思いませんか?」
あっという間に視界の奥へと走り去っていった二人を見送りながら、やれやれと溜め息混じりに呟き、ユアンは足元で動かなくなった敵の一人に笑みを浮かべた。
一番最初に襲ってきた男は、恐らく自分自身のものであろう短剣で胸を一突きされた屍と化していた。
他に外傷は無いが、胸のそれは正確に心臓一つに狙いを定めた一撃だったのだろう。男の意識はとうに無かった。
ようやく敵との距離に気が付いたライが敵に向き直った直後……先程宙を舞って何処かに飛んでいった筈の見慣れた自分のダガーが、目の前の敵の顔面に勢いよく突き刺さった。
視界の端から真っ直ぐ飛んできたそれは敵の片目に命中しており、ライの目と鼻の先で、顔からダガーを生やした巨体が崩れ落ちる。
何故ダガーが?何処から?…などと浮上する疑問を抱きながら、呆然と地にうずくまる敵を見下ろしていると……半ば怒鳴り声に近いユアンの声が、ライを我に返させた。
「――止まるな!動きなさい!…ここは任せて、君は、あの子を…!」
愛用の古びたスーツケースを盾に敵の剣を防ぎながら、ユアンは叫んでいた。
…恐らくダガーを投げたのは彼だろう。
ユアン一人にこの場を任せるのはどうかと思ったが、彼の有無を言わせぬ隻眼と、悲鳴が聞こえた方向を指差す姿に従い、ライは無言で何度も頷いてその場に背を向けて走り出した。
砂簿が舞い散る中では二匹のバジリスクが噛みつき合い、互いの息の根を止めようと野生の本能のままに争っている。
長い尾で砂が叩かれ、掻き分けられていく中を上手く潜り抜けて進んでいくライを…残されたサナは何を思ったのか、闇夜に消えていく背を求めるかの様に、相変わらずの覚束無い足取りで後を追った。
フラフラと、しかし彼女にしては早い歩みで。
「――…サナ君…!………本当にライ君にべったりですね……まるで雛鳥だ。………貴方もそう思いませんか?」
あっという間に視界の奥へと走り去っていった二人を見送りながら、やれやれと溜め息混じりに呟き、ユアンは足元で動かなくなった敵の一人に笑みを浮かべた。
一番最初に襲ってきた男は、恐らく自分自身のものであろう短剣で胸を一突きされた屍と化していた。
他に外傷は無いが、胸のそれは正確に心臓一つに狙いを定めた一撃だったのだろう。男の意識はとうに無かった。


