亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

通常の倍の速さで泳ぐガーラはあっという間に砂喰いの群れを追い越し、数えんばかりの赤い瞬きはすぐさま後方へと消えた。

高速での移動故か、時間の感覚がよく分からない。空いた間は本の数分だったのかもしれないが、それほど時間が経つ前にガーラの速度が徐々に落ちていくのが分かった。
辺りは相変わらすの砂漠の海だったが、暗闇の中に点々と横たわるオブジェのシルエットが見える。恐らくは遺跡の類だろう。誰が何のために建てたのか分からない、巨大で豪華絢爛な・・・しかし今ではその栄華の面影も無い、ただの石の塊が砂に溺れてしまっている。
人の手が入り、人から忘れられた物悲しいそれらを見かける度に、この砂漠はかつて砂漠ではない時代があったのだと気付かされる。

ひたすら宛ても無く進む中、周囲に物言わぬ巨大なオブジェが密集する場所が目に入ると同時に…ひた走るガーラの反応の僅かな変化をライは見逃さなかった。

…そして、不意にぐらりと揺らぐオブジェの一つ。見間違いと思っても仕方ない闇夜の向こうのそれに対し、ライの反応は早かった。
瞬間、サナを脇に抱えて身構えながら叫ぶ。


「――先生、跳び下りて!」

「えっ、跳び…!?」

暴れ馬から落馬しろと言われている様なものだ。動揺するのも無理は無いが、何の躊躇いも無くガーラから跳び下りたライに続き、ユアンも慌てて子猫を懐に押し込んで跳んだ。


互いに反対方向へ跳躍し、鈍い音を立てて半ば転がり落ちる様に柔らかい砂地に不時着する。

反動でブワリと砂埃が舞う。
その霞んだ視界の向こうを、ライは咄嗟の対応が出来る様に身構え直すや否や…。

「…ガーラ、避けろ!!」

短い指笛と共に告げられた命令に、直進していたガーラが直後急カーブを描くようにグッと曲がる。
ガーラが唐突に進路方向を変えて横にずれたのと、そのすぐ傍の砂中から大きな口が飛び出してくるのは、ほぼ同時だった。



「…バジリスク!?」

闇夜の砂漠からダイナミックに現れた巨体に、ユアンは眉をひそめた。