見回した視界の端から端まで黒一色が占めている中、頭上の細かな星明りだけが自分達の現在地を確認する手立てだった。
恐らく相当な速さで進んでいるのだろう。肌を撫で、マントを捲っていく風の乱暴なことと言ったら無い。何度か手綱を引いて止まる様に指示するものの、何かに取り憑かれたかの様にガーラは無我夢中で砂をかく。何処に向かっているのかなど、見当もつかない。
これは不味い…と、ライは最悪ここから飛び降りるしかないと考え始めた矢先だった。
「――ライ君…あれは…!」
甲高い風の唸り声ばかりでいい加減飽いていたライの耳に、ユアンの声が風を押しのけて掠めた。後方にいる彼を振り返れば、闇夜の砂地に向かって指を差している。白い人差し指を辿っった先、反射的に視線を移したライの目に……黒一色の砂漠を疾走する、赤い光が点々と…。
……いや、点々どころじゃない。悠に百は超えているかもしれない、赤い光の群れ。一見闇夜で浮遊する蛍の群れの様な、幻想的な光景だが…これが幻想的で終わらせられるものではないことを、バリアンの民ならば誰もが知っている。
「――…砂喰いだ…!……でも、どうして…!」
見渡す先で瞬く赤い光の群れは、魔獣の砂喰いの群れだった。
獰猛で怪しげな奴等の眼光は、一つならまだしも群れでの光景は恐怖そのものだ。夜行性の彼等が夜の砂漠をうろつくのは当然のことだが…問題はそこではない。
食欲旺盛な彼らにとっては獲物の枠に入る自分達を見逃す筈がないのに、襲ってくる気配が無い。一心不乱に、ただただ砂漠の一方向に向かって群れは疾走しているのだ。
…自分達と、同じ方角に向かって。
(サナを助けた時と…状況が似ている…)
あの時も、群れを成した砂喰い達は自分を無視し、サナが閉じ込められていたバリアンの馬車を襲撃していた。…状況に似通った点があるといって繋がりがあるとは思えないが…少なくとも、砂喰いの異常行動には何らかの影響が隠されているのは事実だろう。
バリアン国家が不穏な動きを見せてから、砂漠はおかしくなっているのだから。
「……勘ですけど…砂喰いと、ガーラが向かっている場所は恐らく同じです!…ちょっと飛ばしますよ先生!」
「勘って……おおっ!?」
ユアンが何か言い終える前に、ガーラのスピードが一気に加速した。止まれと命令しても聞かないくせに、加速には応えるらしい。とにかく、今はこのガーラに任せるしかない。


