ライとガーラの如く、互いに信頼しあう主従関係などサナとガーラには全く無いのだが、何故かお互い、目が合ったまま逸らそうとはしない。
「あの街なら、もしかすると彼の足取りが分かるかもしれません」
「でも…でも、時間が掛かりすぎます…!」
頭上でライとユアンの声が飛び交う中、眠そうに欠伸をかみ殺す子猫だけが、少しずつガーラの頭の方まで這い寄って行くサナの姿を見ていた。
サナがガーラの眉間の辺りにまで辿り着くと、そのギョロリと動く大きな左右の眼球がこちらを凝視していた。
その場でうずくまって固い岩肌にぴっとりと頬を寄せると、このバジリスクという巨体の、長い呼吸音や低い低い呻き声がサナの耳に直に届いた。
片方の眼球に視線を合わせれば、サナの姿を映すそれが静かに瞬きをする。
「…あうー」
血の通った固いガーラの体を、サナは猫でも相手にしているかの様な手付きで優しく撫でる。
サナが声を漏らせば、ガーラは不思議そうにまた瞬きをした。
近頃よく主人と一緒にいるこの少女の声は、当たり前だが理解出来ない。ほぼ毎日聞いている奇妙な人間の鳴き声なのだが…。
この時ばかりは、この黒髪の少女の声が、主人の命令以上に頭に染み込んでいく様だった。
「うーあ」
何故かは分からない。
しかし、何故かガーラの聴覚はその声を捉え続ける。
「なーあ…あー…」
先程から全く瞬き一つしなかったサナの真っ黒な瞳が、ようやく瞼を下ろした。
岩肌をペタペタと撫でる白い手が不意に止まり、ほそい人差し指が、本の少しの圧力をかけてガーラの肌を突いた。
目を閉じていたサナが、ゆっくりと瞼を開いてその唇で声を漏らすのと。
ガーラの聴覚が、意識とは別に神経を異常に研ぎ澄ませるのは、ほぼ同時だった。
ガーラの耳はその瞬間、サナの声以外の全ての音色を阻んだ。
「フォーゥト」


