夜の砂漠は、極めて危険だ。
昼間は昼間で危険だが、砂漠の夜の顔はそれ以上かもしれない。
太陽が沈むと酷暑が無くなる反面、地上の気温は一気に下降する。それはもう信じられない程の冷え込み様で、体温が徐々に奪われていくため、マントなどの防寒着が必要となる。
そして何より一番注意しなければならないのは、この広大な砂漠を根城とする獣の猛威だ。
中でも特に危ないのが、魔獣の砂喰い。夜行性の奴らは日の入り辺りから活発化し、夜の闇の中で旺盛な食欲を満たすために狩りをする。故に、夜に砂漠を彷徨く者はほとんどいない。
狩りの標的にならぬよう、光は持たずに頭上の幾千もの幾万もの星明かりを頼りに進むしかないが、幸いにもバジリスクは夜目が利く。
主人の指笛を聞いて何処からともなく現れたバジリスクのガーラに飛び乗ると、地平線をも塗り潰してただひたすら無限の闇ばかりが続く夜の砂漠をぐるりと見回した。
昼間とは違う冷たい風が、羽織ったマントの裾を棚引かせていく。
(――……何処だ…?何処にいるんだ…?)
向かうべき方角が定まらず、尋常ではない焦燥感に駆られるライの手綱を握る手が、肌を刺す夜気の冷たさとは違う意味で震える。
――フォトは、無事だろうか…?
何も無ければいい。だが、この不安は何だろうか。一刻も早く、と脳裏でけたたましく警鐘が鳴り響いている。
「最後に会ったあの街の辺りでは?」
「分かりません……あれから少し時間も経っている。…帰路についている途中だったなら、全く逆方向になります…。……東側の砂漠なのか…近くの街なのか……ああっ…くそっ…!!」
湧き出る苛立ちを隠せず、ライはガーラの上だという事も忘れ舌打ち混じりに地団駄を踏む。
ゴツゴツとした岩肌に収まった大きな眼球が、苦しそうな表情の主人を心配そうに見上げた。
そんな仁王立ちするライの傍らで膝を突いていたサナの視線が、ふとガーラのそれと交わる。


