亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


そう呟いてわなわなと震える手を握り締めたかと思うと、ライは壁に立て掛けていた愛用のダガーを素早く掴み取った。

「…どうするつもりなんですか」

視界の端から端へと忙しく動き始めたライに、ユアンは冷静に言った。ライは焦った様にダガーを腰のベルトに挟みながら、未だに震える声で口を開く。

「……“鏡”が死ぬなんて、ただ事じゃない……フォトを、フォトを探しに行って来ます…!……嫌な予感がするんです……すみませんが、先生…サナとティーを、お願いします…」

ユアンに一礼し、足早に出入り口へと向かおうと踵を返したライ。だが、その背に「待ちなさい、君」ととにかく冷静な声が掛かり、思わず立ち止まって振り返ってしまった。

何が起きているのか分からない。だが、事態は一刻を争うかもしれないという中、今この会話を交わしている時間さえも惜しいライの目に…何故か上着の袖に腕を通し、ボロのスーツケースに手を伸ばすユアンが映り、今から外出でもするかの様な彼の様子に目を瞬かせた。
不思議そうにライが疑問を口にしようとするのを、ユアンの言葉がすかさず遮る。

「こんな暗い道中、君独りで行かせる訳にはいきません。このユアン先生も行きますので、一緒に連れて行って下さい。……なに、足手纏いになる気は毛頭無いですから。それに……嫌な予感がするなら尚更の事。…状況によっては、この金医者の手がいるかもしれませんからねー」

「…先生」


黙々とこの隠れ家から発つ準備をするユアンに、ライは非常に申し訳無さを感じつつも、無言で頭を下げた。
そして誰もここにいないのならばサナを独り置いて行く訳にはいかないと、せっかく心地良く夢の中にいるであろうサナを起こし、寝ぼけ眼の彼女を背負った。
サナの懐から転がり落ちたティーも、三人の後を追って出入り口へと走った。