訝しげに掛けられたユアンへの返事も疎かに、ライは弾かれた様に暗がりへと駆けていた。
そしてそのまま、仄かに瞬く小さな光源を両手の平で包み込む。目下のそれを見下ろしながら、ライは胸の鼓動が酷く不安定に鳴り出すのを感じていた。
キラキラと光る、手の中の弱々しいそれを…瞬きを忘れた双眸がひたすら凝視する。
「……それは、何ですかライ君?」
「か、がみ、が…」
「……え?」
今度は間髪入れずに返ってきた答えは、一度耳にしただけでは理解が出来ないものだったが…。
それよりもユアンが首を傾げたのは、先程とは打って変わって驚くほど豹変した、青ざめたライの様子だった。
若干震えている彼の声が、ポツポツとその場に落とされる。
「――……かがみ…です。これは…“鏡”なんです…!」
声と同様に小刻みに震えるライの手には、半透明の赤い、小さな蝶の姿があった。
通称、“鏡”と呼ばれているこの赤い蝶は、ここバリアンに生息する昆虫である。
貧弱な彼等は天敵から身を守るために、幾つもの分身を作ってあちこちに点在している。本体が死ななければ分身は消えない様になっており、且つ本体と分身の間では意思伝達が可能で天敵の位置や危険を遠くからでも知ることが出来る。
また、意思伝達と同様に彼等の小さな羽には彼等が見た景色が映る事もあり、バリアンでは昔からこの蝶を“鏡”と呼んで利用してきていた。
“鏡”を一匹所持していれば、その分身を仲間に渡しておくことで遠くからでも仲間に自分の様子を映像で伝える事が出来るし、もしもの時にはすぐに仲間に報せる事が出来る。
…そして今が、その時だった。
もしもの事があったことを…この目下の“鏡”は、美しい鱗粉を瞬かせながらライに伝えに来たのだ。
「…フォトに……一匹、“鏡”の本体をあげていたんです…」
手元の蝶が、次第に光を失っていくのが目に見えて分かった。
赤い瞬きが、死にゆく蛍の様に弱々しくなっていき…とうとう、跡形も無くその小さな姿は消え失せた。
「――…フォトの“鏡”が、死んだ……フォトに…何かあったんだ…」


