亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


家業の放浪医者を普通に勤めるだけでは、満足に金が稼げない。故に副業を兼ねていると言うが、医者の稼ぎよりも良い仕事が、果たしてこの万年不況のバリアンにあっただろうかとライは首を傾げる。
仕事を探すなら、むしろ新王を迎えて統治されたデイファレトの方が見つかりやすいのでは。
そんな疑問を抱いては怪訝な表情を浮かべるライの考えが分かったのか、ユアンは「君の言いたい事はよく分かる」と苦笑を浮かべて呟いた。


「バリアンも探せば良い稼ぎの仕事があるもんですよ?好き嫌いをしなければ、ね。僕は運良く……そう、いい雇い主を見つけたんでね…だから今はそれなりに充実してますよ」

何かと物騒で身の危険を感じるものがやたら多いけど、と小声で付け加えて見せる微笑は、まるで悪戯好きな子供の様に輝いてさえ見えた。この若医者は、日常の中でちょっとしたスパイスやスリルを望み、そしてそれらを欲しているらしい。
この荒んだ御時世にスリルも何も…と、ライは思わず表に出てしまった呆れ顔をこっそりと仕舞い込んだ。

「そんなに稼いで…先生は富豪にでもなるつもりなんですか?」

「富豪?…そんな明らかにつまらないもの、こっちから御免被ります。僕はねー、医者をする傍らで研究をしているんですよ」

「…は?…研究?」

聞き慣れないし、きっと後にも先にも使わないであろう無縁の単語に、ライは目を瞬いた。軽い混乱に陥った頭は、さすがにこの時ばかりは得意の想像力さえ働かない。

青年の面白い惚け顔に軽く吹き出しながらも、ユアンはのんびりと言葉を続けた。
くわえたパイプは、いつの間にか煙を吐いていなかった。吹き出した拍子に中身を飛ばしてしまったらしい。中途半端に焦げた丸めた煙草が足元でただのゴミ屑と化していた。

「………“第二次神声戦争”は御存知ですかねー?…その頃の時代は通称、古代文明期と言われているんですが……僕はその頃の文明に痛く興味がありましてねー」

「…はぁ」