亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


………。


……何と、言うか………随分と…あれな…。




(………やばい…)

予想とはだいぶ違う、斜め上の答えにライは閉口した。
好奇心で訊いてしまった浅はかな自分に罪悪感を覚えつつ、気まずそうにあちらこちらへと視線を泳がせる。何の感想もリアクションも取れぬまま、嫌な沈黙を好き勝手に漂わせていたが、静寂を破ったのは軽快なユアンの笑い声だった。


「ハハッ、どうやら気まずい空気にさせてしまったみたいですねー。…別に君が気に病む事は全く以て無いんですよ?」

「………で、でも…」

内容が内容なだけに気を遣うなという方が無理な気がするが、当の本人は相変わらずのいつもの人の良い笑みを浮かべるばかりで………悲愴さの欠片も見当たらない。

…どうやら本当に、ユアンは己の凄惨な過去に何の感情も抱いていないらしい。
取るに足らない、話のネタにすらならない馬鹿馬鹿しい話しだと、彼はその隻眼でにっこりと笑って述べた。

「僕からすれば、ただの過ぎ去った時代………笑い話に過ぎないんですから」

「………」


黙り込むライとは対照的に、それはもうケラケラと笑い飛ばしたかと思えば、つまらなさそうに虚空を見上げるユアンを見詰める。
初めて会った時からその見慣れない容姿もあって、随分と変わった人だと思ってはいたが………どうやら想像以上に、この人は変わり者らしい。
いつもの綺麗な笑みの裏に、まだまだ違う顔を隠しているような気がして、ライの中でこの若い医者の謎めいた部分が余計に膨らむばかりだった。
不意にライから少し距離を取ったかと思うと、ユアンは懐から愛用のパイプを取り出した。就寝中のサナを考慮しての事だろう、煙が届かない場所に移ると、手際良く古びたマッチに火を灯した。
灰色の歪なリングを吹き出しながら、彼はリラックスした吐息を漏らす。

「…まぁそれはさて置き、とにかく僕はやりたいことをやるためにお金が欲しくてね…それも大金が。バリアンに来たのはそのためでね、こちらで働いた方が稼ぎが良いんでねー」