亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


金にがめつい若医者のユアン…としか彼を認識しておらず、それ以外の表情をライは見たことも聞いたことも無い。自分よりも彼と親しいレヴィ達や、患者のオルディオは彼という青年をよく知っているのだろうか。

謎という砂嵐に覆われた彼の一面に様々な想像を膨らませるライ。彼自身の過去もそうだが、異国の話も聞いてみたい。何を語ってくれるのかなと少しの期待を抱いてユアンを見やる。
…だが、当の彼はランプの明かりをじっと見下ろしたままで、そのまま視線を微動だにしなかった。
指先で頬を掻きながら少し考える様な素振りを見せた後、ユアンはようやく口を開いた。ポツリポツリと漏れ出る言葉は、どれも何だか気怠そうに落ちていく。


「…んー…何というかどうというか………大して面白くも何とも無いのでねぇー………この職業も簡単に言えば家業を継いだだけだし………………君の面白い母親の様にとりわけ面白い両親でもなかったですしねぇ…」

「医者の家庭………真面目そうなイメージですけど、ご両親とも厳しい人だったんですか?」

想像の中でユアンという人の人物像に色を重ねていきながら、自分には縁のない医者の家庭なんぞという別世界の家族を想像してみる…が、堅苦しいイメージしかわいて出てこない。
うーんと首を傾げるそんなライに、ユアンは実に何気ない様子で言葉を続けた。
実に何気ない…気にもとめていない声音で紡がれた過去は、ライの想像をあっという間に上塗りしてしまった。



「厳しい……厳しいというより、あれこれと口煩い父親でしたねー。物凄く横暴で、ギャンブル好きで…あまりにも自分勝手でしたから、とにかく恨まれていたんでしょうね。ある時目の前で死にましたよ。そう言えば、母親はとっくに愛想を尽かしていませんでしたねー。でも一文無しで出て行っていましたから、多分もうとっくの昔に何処かで野垂れ死んでいるんじゃないかな?男を見る目も無かったから、何処ぞの愛人になっても使われるだけ使われて直ぐに捨てられただろうしねー」