亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

…一見遊んでいるようにしか見えない、他人には理解出来ないであろう動作を黙々と行いながら、リディアはぼそぼそと呟く。


目下にぶちまけたカラフルな石ころの群れ。
青と緑の石は、寄り添うように中央に止まったが……。

その中で赤い色の石だけがただ一つ、群れから外れている。





「………バリアンはちっとも、動こうとしないの。…………大人し過ぎて、不気味」















夜の帳が少しずつ、茜色の世界にじわじわと下りていく中。
長い長い砂埃の道が続く砂漠の先で、ライの瞳は異様な光景を捉えた。

「…何だ、あれ」

何処に行っても相変わらずの殺風景。砂の海以外で時折見かけるものと言えば、つわもの達の夢の跡と言うのに相応しい、名も知らない廃れた遺跡。
いつくたばったのか分からない獣の骨。
今となっては生死も分からない、もちろん知るつもりなどさらさら無い誰かの荷物。

半身を砂に埋めた物寂しいオブジェクトを今までに何度か見てきたが、視界の先にあるそれは、寂しさとは逆の物々しいそれだった。



噴水の様に巻き上がる赤い砂と、その中に微かに見ることが出来る荷車の様な物影と………それに群がる、物凄い数の砂喰い。

獲物に集る蟻の群集の様に、砂喰いの群れは寄って集って荷車に食らいついていた。


……何とも気持ちの悪い、おぞましい光景だ。
しかめた顔で見詰めながら、ライは巻き込まれぬ様に距離を取りつつも少しずつ近寄って行く。
極上の獲物でも無い限り、砂喰いがこれ程の数の群れで荷車を襲う筈が無い。


―――あの荷車に、何かあるのだろうか?


…あったとしても、この勢いだ。既に食らい尽くされているのは必然だが。
集る砂喰い達の後ろ手に回り込み、ライは手綱を手放してガーラから飛び下りた。心配そうに唸るガーラのごつい鼻先を撫でながら、ニャーニャー泣き続けるティーラが顔を覗かせた荷袋もその場に置いて行く。

「…大丈夫、ちょっと見たらすぐに戻ってくるから」