重い瞼を、開いた。



揺れる乾いた瞳が映した世界は。





―――漆黒の中で細かな光が控えめに瞬く空と、吸い込まれそうな程に暗い、暗い…底の見えない暗黒の平面。



ただただ、そこは静かだった。






湿り気のある空気を震わすのは、時折吹き渡る風が奏でる音色と。





波打際にまで繰り返し身を寄せる、海の息吹。












広大な景色の彼方に見えるのは、ぼんやりと浮かぶ丸い月の仄明かりに照らされた、微かな地平線のみ。

広がる闇は、何処から何処まで続いているのだろうか。

真上に広がる光の瞬きは、一体幾つあるのだろうか。

白く輝くあの美しい珠は、一体何を見下ろしているのだろうか。








微かな風とさざ波の音と、しっとりとした闇と、控えめな柔らかい明かり。

そこは酷く静かで、何も無くて、孤独で。

それでいて、居心地の良い世界だった。









そんな、静寂が鎮座する世界の端。

一切の凹凸が無い滑らかな白い砂浜を、ユラユラと漂う赤い砂埃の塊が、静かに夜の闇を掻き分けていった。

意志を持つそれらは、数体の群れを成して風の様に砂浜を過ぎっていく。
冷たい海が陸に向かって伸ばす手を避けながら、赤いそれらは何処に行く訳でもなくゆっくりと進んでいた。

風に身を任せて自由気ままに漂っている内に、不意に、群れの先頭を走る赤い砂埃が進路を変えた。


後ろに続く数体の砂埃も、必然的に先頭に従って後を付いて行く。

湿った砂浜を横断し、とある波打際に辿り着くと…群れはその場で円になって止まった。

小さな円陣を組んだ赤い砂埃達は会話でもしているのか、ぼんやりと浮かぶ黄色い一つ目をギョロギョロと泳がせて互いに瞬きで合図を送っている。






赤い砂埃の群れは、円陣を組んだまま、一見なんとも脆そうな掴み所の無い我が身を震わせて小さく舞い上がった。