亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

何と答えようか…と頭を掻きながら言葉を選ぶライは、しばしの沈黙を挟み、ポツリと話を切り出した。

「………僕が…街で情報収集をするために、三槍の人間である事を隠しているのは…勿論、知っていますよね」

「…あー…働き者の身寄りの無い孤児と周りからは言われていますね」

「………………その孤児っていうの………なりすましているのもありますけど…僕は本当に、孤児なんです…」












ライの一番古い記憶は、簡単な読み書きが出来た事を誉めてくれる母の優しい笑顔だった。


それはすっかり色褪せた記憶だったが、母の声、髪を撫でる柔らかい手の温もりだけはいつまで経っても鮮明にあり続けている。

母はいつも笑っていて、いつも明るくて………いつもいつも、とても疲れている人だった。




古い記憶の光景は、首都とは違って全く人気の無い街…否、小さな荒んだ村だった。
その村には自分達以外にも住居があったが、そのほとんどが老人ばかりで、俗世間から切り離されたかの様なそこは賑わいというものとは縁の無い場所だった。

そんな村の中。廃屋に近い狭い我が家の片隅で、母は毎日毎日家事の合間に針仕事をしていた。
母の器用な手先が流れるような動きで糸を紡いでいる姿を、幼い自分は簡単な家事をしながら見つめていたものだ。

子供ながらに、我が家は酷く貧乏で生活苦である事を無意識に分かっていた様で、物心が付いた頃から母の仕事を半ば奪い取る様に進んで買って出たものだ。

偉いね、と撫でられる度に、日々傷だらけになっていく母の痛々しい手を間近に見て、悲しくなった。




「………早く大きくなりたい。早く文字も読めるようになって、計算も出来るようになって、力が付くようになって………早く大人になりたい。母を楽にさせたくて、僕は必死でした。母に隠れて子供でも出来る仕事を必死で探して、稼いだ小遣い程度の金を生活の足しにと母に渡しましたが………母は、自分のために使えと言って、どうしても受け取ってくれませんでした。………本当、子供である事が悔しくて仕方なかったです」