目の前の鴉の濡れ羽色は、ランプの明かりを受けてキラキラと鮮やかな光沢を放つ。
黒一色。夜の闇と同じ単色なのに、暗さとは真逆の光を帯びるとどうしてこんなにも美しく際立つのだろうか。
それがサナという見目麗しい少女なのだから、尚のこと艶やかに見えてしまう。
自分には無い長く美しい彼女の髪を梳いてやりながら、ライはきらめく彼女のそれに半ば見とれていた。
髪を梳くのに使っている櫛は、その辺の市場で購入した安価の中古品のわりに使いやすい代物なのだが、サナの髪に透すには相応しくないとさえ思えてくる。
サナの世話役であるライは、毎日毎日まるで過保護な母親の様に甲斐甲斐しく彼女の世話に時間を費やしている。
当初は年頃の異性…しかも美少女相手に世話など、と気恥ずかしかったものの…慣れというものは実に怖いものだ。
今は移動や食事、入浴などに至ってはリディアに任せているものの、その他はほとんどライ一人でこなせるようになっている。その世話っ振りには周りも舌を巻いており、「俺が爺になったら、お前、俺の介護役な」とロキから予約もされている。
そしてその世話焼き具合に感心するのは、ユアンも例外ではなかった。
日が暮れて辺りがとっぷりと夜に浸かった頃、無事に隠れ家に戻ってきたライ達。
隠れ家は数日前と変わらず無人のままで、連れてきたユアンはオルディオを待つべく暇そうに隅に腰を下ろしていた。
座り込んだ体勢のまま、ほとんど目を閉じた状態でコクリコクリと船を漕いでいる少女。
可愛らしい寝息を立てながら何度も前へ揺れ動くサナの背後で、美術品でも扱うかの様に慎重に彼女の髪を丁寧に梳いているライ。
最近ではこの二人のペアを頻繁に目にしているせいか、ライとサナが一緒にいないと違和感さえ覚えてくるようになったから不思議だ。
まるで恋人同士…と例えればライが怒るだろうから、では兄弟………………いや、これは親子だ。
「…しかし本当に、ライ君はサナ君に尽くしていますねー。もう立派に歩いたり走ったり出来ている様ですし。喋りは相変わらずの様ですが」


