亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

胡坐をかいて瞑想に耽っていたその老人……老長オルディオは、来るや否や相変わらずの目付きの悪さでこちらを睨んでくる銀髪の少女にのんびりと顔を向ける。
傍らにある愛用の水パイプを、やはりのんびりと口に持って行きながら、オルディオは唇を動かす。

声を出すのは幾年振りだろうか、と思える程にしわがれた声が、苦笑混じりに少女に返された。


「………落ち着きいや、リディア」

独特なイントネーションを持つオルディオの声は、聞く者を引きこむ奇妙な力を持っているのだが、当の少女…リディアは、そんなもの知るかとばかりに不機嫌そうに顔をしかめた。
元々の目付きの悪さが、更に悪くなる。せっかく可愛らしい目鼻立ちをしているのに…と哀れに思っているのは、恐らくオルディオだけではない筈だろう。


「…どうせまた、何処かで道草をくってる。………帰ってくる度に、どうしようもないものを拾ってくるから困る……今夜は皆集まる日だから、すぐに帰ってって言ったのに…」

ライの困った拾い癖を知っているリディアは、中央で我関せずと燃え続ける焚火をじとりと睨みながら溜息を吐いた。
帰りは遅い。何か拾ってくる。処理に困る。……毎度毎度、この繰り返しなのだ。

今夜はこの秘密の場所である隠れ家で、オルディオを筆頭にした久しぶりの集まりがあるのだ。
恐らく日が暮れる前には、集会の面々が姿を現すだろう。ライにはそれまでに帰ってきてほしいところだ。


「……遅刻魔のモノクロコンビより遅かったら笑い者。…オルディオ、ここで水パイプを吸うのは止めて…」

気付けばもうもうと立ち込み始めた焚火のそれとは違う煙に、リディアは後ずさる。だが聞こえているのかいないのか、オルディオの口からは煙が絶えない。


ああもう…と独り悪態を吐き、リディアは煙の流れてこない隅の方に腰を下ろした。そして羽織っているマントの内ポケットに手を差し込み、黙って取り出したのは……何の変哲も無い、色が付いたただの石ころだった。

その何色かの石ころを、リディアはまるで幼児の様に地面に撒いて転がし始める。