色褪せた記憶に、レヴィは小さく舌打ちをした。苦虫を噛み潰した様な表情は、この薄暗がりの中では誰の目にも止まらない。
「…白槍の言う通り、仮に戦が始まるなら…一体バリアンは何処とやり合う気だ?…昔、老王が起こしたいざこざの延長線だとすれば………デイファレト、か?」
「………バリアン兵士は、フェンネルとの国境にも配置されているんだぞ。それを考慮するなら…両国と争う姿勢だと考えた方が妥当じゃないか…?」
「………三国間での戦争…?もしそれが本当なら………規模が、大きすぎる…そんなの………今までに例を見ない…」
「―――静かに。まだ、そうと、決まった訳じゃ、ない…」
再びざわめきが波紋の如く広がり始めた仲間達に、リディアは顔をしかめる。手に馴染む愛用の鎚の固い先端で岩壁を軽く叩き、よく響く鈍い音色で全員の意識をこちらに集めた。
「………とにかく、今は、敵の動き、読みにくい……敵の目、以前ほど、あたし達に、向けられてないけど………充分に、警戒。新しい情報、入り次第、迅速に伝達…」
憶測ばかりの問答は、却って誤答を生むばかりだ。より確かな情報を得て、今後どうすべきか見極めなければならない。
三槍の頭であるオルディオが指示を仰がなければ、誰も勝手な動きをとってはならないのが鉄則だ。
この夜の集会では、どうやらただの情報公開で終わりそうだとリディアは思った。当のオルディオは、いつもの瞑想に耽ったままだ。皆に向かって口を開く気配さえも見せない。
その場の空気が、次第に解散に向けて騒がしくなり始める。
地上からの風が吹き抜けてくる穴のあちこちから、主人を迎えに来たらしいバジリスクの猛々しい鼻息が聞こえてくる。
凹凸だらけの岩壁に手足を掛け、レヴィはほぼ直角の壁を難無く登っていく。
そこら中に空いた穴の通路の一つに身を滑り込ませ、何故か黙りこくったままの男…あぐらをかいて物思いに耽ているロキの傍に歩み寄った。


