亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


戦、という短い単語が厳かな響きを伴っていた様に思えたのは、声の主がオルディオだったからかもしれない。だが、それを聞いた直後のこの胸のざわめきは…その言葉故だからだろう。
その場の空気が、より一層息苦しくなったのは気のせいではない。

「………戦、というと………内紛ではなく、もっと規模の大きい…国家間でのという事か?」

「…この、長年鎖国状態が続いているバリアンがか?…新王のガキが玉座を乗っ取ってから、まだ三年だぞ?…まさか、そんな…」






「―――あの糞ガキだからこそ、さ」

白黒のあちこちからざわめきだった囁き声が交わされる中、不意に響き渡ったレヴィの声が水を打ったかの様にざわめきを断った。
彼の声に耳を傾ける群集を静かに見渡しながら、レヴィは再度口を開く。


「…一昔前の臆病な老王様なら、まさかと疑うところだが………今は違う。今、あの城で俺達を見下ろしているのは…飼い主を食い殺した猛犬だ…。……その糞ガキなら、充分有り得る話だ。何を考えているか分からない奴だが……滲み出る腹黒さの臭いが、俺には分かる。………非道で、冷酷。あの老王とはまるで真逆の野心家で、大法螺吹きで………………狂っている」

あの今は亡き老王が可愛く思える程に、とにかく今のバリアン王は、最悪の厄介者だ。完璧に狂った者ならまだしも…あの王は理性的な狂者だ。簡単に叩く事は難しいだろう。
あの王は…あの子供は、昔から奇妙だった。王族らしく振る舞う礼儀正しいまともな人間像が、レヴィからすれば違和感の塊でしかなかった。

…擦り切れた古い記憶の景色が、レヴィの脳裏を過ぎる。


………広く長い城の廊下の先。

年端も行かぬ幼い王子が、ただ一人。
夕焼けが差し込む誰もいない廊下の真ん中で、窓の外をじっと見詰める少年の姿。

太陽をじっと…静かな殺意を秘めた目で睨みつける……独りの子供。




(………昔から分厚い化けの皮を被っていると思っていたが………案の定だった)