亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~















日が下り始めて冷えてきた空気と、ゆっくりと宙に漂う砂埃が、鼻をくすぐる。

あ、出る…と咄嗟に両手で鼻を覆ったが、その抵抗も虚しく。控えめな可愛らしいくしゃみをリディアは漏らし、そしてそれは……彼女の目の前に広がる巨大な空間全体に瞬く間に反響した。

「………鼻をかむか?」

「………遠慮、する…」

傍らの岩の上であぐらをかいていたオルディオが、苦笑混じりに振り返ってきたのを、リディアはムスッとした表情で睨んだ。


リディアとオルディオがいるのは、頭上の日光も下りるのを躊躇う遥か地の底。
地中奥深くの、ぽっかりと空いた巨大な空間だ。
ここバリアンの地は、何処も彼処も砂ばかり。風の赴くままにサラサラと流れ、日々表情を変える砂漠地帯だが………その地下がどうなっているか…それを知る者は、少ない。


広大なエデ砂漠の一部の地下には、実は獰猛なバジリスクの巣が幾つも混在している。
バジリスクの巣は地下深く。彼等は地下の固い岩の層に大穴を空け、そこを拠点に幾つもの通路を作る。
構造は蟻の巣の様なもので、大穴の壁にはあちらこちらに通路の穴が空いているのだ。


そのバジリスクの巣に目を付けたのが、オルディオ達三槍である。
バジリスクをペット同様に飼い慣らした三槍にとって、野生のバジリスクを手名付けるのは朝飯前の事だ。彼等の巣は地上からは決して見つからない場所にあり、通路が空気穴となっている事もあって、大人数で密談をするには絶好の場所だった。

しかしながら空気は淀んでいるし、野生のバジリスクも行き来しているためたまに騒々しくなるし、何より暗いため…決して快適な場所ではないが…背に腹は代えられない。


例の如く、その巨大なバジリスクの巣の中…底にどっしりと落ち着いている大岩の上に、オルディオが腰を下ろし、その傍らにリディアが佇み…。


そして、大きな空間のあちらこちらに空いた通路用の穴の縁には……百余りの数はいるだろうか、オルディオを見下ろす屈強な男達の集団が、腰掛けていた。