ゴールとの距離、数メートルの道程の中に………自分以外の影法師が、地に足を着いていた。
影法師?いいや、違う。
ただの、人間だ。
いつの間にか目の前にいた背の高い人影を、ただ唖然と見上げた途端。
フォトの視界は、再び真っ黒に染まった。
遠退く意識の何処かで、松明がはぜる音色が一つ響き渡った気がした。
「―――子供?何処にですか?」
「そこの路地の辺りだよ…あたしらを見ていたし、特に先生を見ていた気がしたから……先生の知り合いかと思ったんだけどね…」
ほらそこだよ、と女将が指差す方向にユアンは隻眼を向ける。
先程まで子供がいたらしい背後の暗い路地裏には、誰の気配も人影も無かった。
子供、と言われれば思い当たる人物は一人しかいないが…。
「…急に走って行っちまったんだよ。先生に用があったのかもしれないね…」
「………」
ユアンはしばし、その路地裏を見つめていた。人気の無いそこには、肌寒い風が吹き込んでいるだけで、静寂ばかりが巣くっている。
「急患とかだったらどうするのさ、先生……行って見ちゃあどうだい」
男相手だと狡猾な商売人となるが、話が女子供の事となると女将は若干心配性になるらしい。
行ってこいとユアンの肩を押してくるが、ユアンはやんわりと女将の手を取った。
路地裏を見詰めながら首を傾げていたユアンは、いつものニコニコとした笑顔で向き直り、綺麗な女将の髪を一撫でして呟いた。
「………誰もいませんよ。見間違いじゃないですか?」


