亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~




「……兄ちゃんに…伝えないと」



途端、それまで緊張で硬直していたフォトの足は嘘の様に機敏に動き出した。夜気に触れて冷たくなってきた足元の砂地を勢いよく蹴る。

確かライはユアンを連れて行くと話していた筈だ。そのユアンがまだ街にいるのだ。ライ達もまだ彼を待っているに違いない。ライはもう街の外だろうか。

ユアン達のいる通りから暗い路地裏へ。
移動手段であるバジリスクのガーラを連れてきているだろうから、恐らく街の外で待機しているのだとフォトは踏んだ。
ここから一番近い門は何処だろう。早く彼に会って、早くこの事を。




………あの人は、きっとあの人なのだ。

三槍の事を嗅ぎ回っているという密偵は、もしかするとあの人なのか。

それが異なるにせよ………ライ達にとって、あの人はきっと…。



危ない、存在であることは確かで。














道の角に差し掛かり、その急カーブを素早い体重移動で曲がりきった。小柄なシルエットが闇の中で疾走する。
グネグネと曲がりくねった路地は次第に背筋を伸ばし始め、枝分かれの無い一本道へと変わっていた。その果てしなく思える道の先に、揺らめく光…松明の明かりが灯台の如く道標となって孤立していた。
…あれは門の松明だ。上手く役人の目を盗んで外に出られるだろうか。

まだ口を開いている門に向かって、フォトは加速した。…人気が感じられない。滑り込んでいけば…。





狭い路地から出られるまで、あと数メートルと迫った時………頭上から、テントで使われる古びた布がふわりと落ちてきた。

「うわっ…!?」

この路地裏の天井に張られていたものが落ちてきたのだろう。行く手を阻むかの様にタイミング悪くフォトに被さってきたそれを、一旦立ち止まって邪魔だとばかりに勢いよく払いのける。

暗闇と埃臭さから解放され、クリアになった視界で再度前に向き直った。





道の先には、数秒前と変わらず鮮やかな松明の明かりがあった。

その距離も、明るさも、当たり前だが何も変わらないのだが。