亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


二人の立ち位置は、浮かび上がってきた記憶の風景と酷似していた。
商人と話していた記憶の中の後ろ姿を、無意識でユアンの姿と重ねる。



…そう、あの後ろ姿も、先生と同じ様なマントを羽織っていた。色や長さもあんな風だった。フードを深く被っていた。
…背格好も、よく見たら先生と似ていたかもしれない。細身で、背も高くて…。









(………あ…あれ…?)

よく似ている光景と曖昧な記憶を重ねることで、過去に見た景色が次第にくすんだセピア色から鮮やかさを取り戻してきたのだが………頭の中で出来上がっていく記憶のワンシーンに、フォトは違和感と…そして何故か既視感を覚えた。

…既視感?どうして?

自分はあの背中に、見覚えでもあるのだろうか。顔も見ていないのに?後ろ姿しか…しかも一瞬しか目にしていないのに。


既視感だなんて………知人ならば有り得るかもしれないが。
…まるで、商人と話していたあの人物を以前にも見たことがあるかの様な…。




見た、ことが…。



………覚え、が…?







……いや。























「―――そう、だ…」







その瞬間、フォトの中でカチリと最後のピースが嵌る音が鳴り響いた。
モヤモヤして仕方なかった何かが、埋めたくても埋められなかった穴が今この時一寸の狂いも無く満たされた気がした。
難題を見事解いた時の様な達成感や爽快感が胸中で広がるが…それは、一瞬の事だった。

ブルリと、身体が震える。武者震いとは違う、嫌な震え。

記憶の中の人物の正体が判明すると同時に、フォトの心中は言い知れぬ不安で一気に満たされてしまった。
今は肌寒い夜の初め。暑くも無いのに、フォトのこめかみに多量の汗が伝い落ちる。

少年の脳裏だけで姿を現した人物。思い浮かべる度に、フォトは困惑気味に首を傾げた。


……しかし何故?

何故…あの人が?

ライは、商人と最後に話していた人物が商人を殺した犯人ではないかと言っていた。

では…あの人が?


もしそうならば……あの人は、ライ達にとって…。