亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


「………え?そういう間柄じゃないの?」

今までの記憶を辿っても、ライが女性と同伴していたことはない。
…リディアという仲間の女性と二人で行動していたことはあるが、彼女を前にしてライは何やら戦々恐々とした態度をとっていたのを不可抗力にも見てしまったため……恐らく、彼女は単なる仲間の枠組みに入る存在だろう。

それに、ライは容姿はそれなりに良い好青年な筈だが女っ気という気が全く無い。ついでに言えば女性に免疫があまり無い様で、娼婦に声を掛けられる度に困惑し、思い付く限りの断り文句を早口で繰り返しながら逃走する…のを、何度か見たことがある。

だから、そんなライが珍しく一緒にいて、しかもこんなに綺麗な女性なのだから、ライにも甘酸っぱい春が来たのかなと勝手に想像していたのだが。


なんともつまらないことだが、違うらしい。




「全然違うの?脈無いの?ただれた関係でも無いの?つまんない」

「その年で一体どんな知識を蓄えているんだい!?…違う、違うよ!そういうのじゃないし別にただれてもいません!そ、それに恋人だったら、こんな米俵を抱えるみたいに恋人を抱えないだろう!ねぇ、サナ!」

「あーう!」

耳まで真っ赤に火照らせた顔で吃りながら、例の如く俵の様に脇に抱えたサナに同意を求めれば、サナはとりあえず叫んだ。
そこに意図はない。





「ふーん…絶対そうじゃないかって踏んでいたんだけど………まぁいいや。それじゃあ今日はここでお別れだね。末永くお幸せに」

「おいこら、僕の話を一切合切聞いてないだろう!真っ直ぐ帰るようにな!」


最後の最後に捨て台詞という名の爆弾を置き、フォトは笑って手を振りながら濃い夕闇の奥へと走り去っていった。
小さな影が路地に入り、完全に視界から消えていくのを見送ると、ライも足早に大通りから脇の路地裏へと入った。

元々日光を迎えてくれない路地裏は、この時刻になると既にまるで夜の様で、ちらほらと小さな篝火が灯されているのが見えた。