誰だお前は、とでも言うかの様に並ぶ凶悪なしかめっ面は、ニコニコと呑気に笑顔を向けて歩み寄ってきたユアンの姿を捉えると…途端にそれらは不機嫌そうに歪んだ。
内一人に関しては隠す気の無い舌打ちまで漏らしている。
手前に佇んでいた兵士は、抜き身の剣の切っ先をフラフラとユアンに向けたり逸らしたりを繰り返し、粗暴な態度はそのままに口を開いた。
「…これはこれは、誰かと思えば……金の亡者の異名を持つ、金医者様じゃねぇか。………ケチな金医者様は、やはり食い物に出す金もケチるんだな……こんな小汚い店だ、さぞや安価で不味いんだろうな」
皮肉めいた発言に、ユアンよりも奥にいた店主の方が分かりやすい反応を見せる。思わずムッと顔をしかめるが、兵士がこちらを見るや否や慌てて顔を逸らした。
金医者やらケチやらと非難を受けた当のユアンはというと、否定するどころかそれは本当の事だから別にどうでもいい…とでも言うかの様に、呆れるほど涼しい表情だった。
兵士達に近付く彼の軽やかな足取りが本の数歩前で立ち止まると、見るからに重そうな荷物を手にしたままニッコリと兵士に笑いかけ、ただ一言。
「貴方方は今、非常に通行の邪魔です。つべこべ言わずにそこを退きなさい。邪魔」
泣く子も黙るバリアン兵士をスパッと切り捨てた実に爽やかな彼の一言に、当たり前だが兵士達の悪そうな笑みが引きつった。
ただでさえしんと静まり返っていた店内は、今ので余計に緊張の糸を一本張ってしまった様で、客人達のほとんどはこの時この場に居合わせた我が身の不運さに嘆いた。
「………はぁ?」
「退いて下さいと言っているでしょうが。天下のバリアン兵士が、こんな簡単な言葉の意味さえも分からない訳がないでしょう?それとも本当に資本である身体だけが取り柄の脳筋ですか」
「………おい…」
ちらついていた刃の先端が、ゆっくりとユアンを標的に定めて動きを止める。
明らかに怒っている兵士のどす黒い殺意にも、ユアンは微笑を浮かべたままだ。


