亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

何故かこちらを見向きもせずに素通りしていく砂喰い達に、ライは首を傾げる。
明らかに自分達の姿が目に入っている筈なのだが、群れは一向にその足取りを止めないし、何の反応も見せない。
獰猛で好戦的な彼らにはあるまじきその様子を眺めながら、ライは群れの向かう先に視線を移した。


健康な青少年一人とバジリスクが一匹、おまけに子猫も付いてくる獲物を無視してまで、彼らは一体何処に向かっているのだろうか。
恐らくその先には食欲に勝るものがあるのだろうが、残念ながら想像もつかない。

…とにかく、襲われる事無く無事でいるのだ。これ幸いと大人しく帰るのが一番良い事なのだろうが…胸中の晴れない疑問が、ライの帰路への足を止める。

(…何処かの旅人か…もしくは商人の荷車が襲われているのかもしれない…)


お人好しだというのは、自分でも分かっている。赤の他人の事でも、放っておけない。



道草をくうのは毎度の事だと妥協した時には、既にガーラの進路を西に向けていた。
未だにビクビクと震えている可哀想なガーラには申し訳ないが、砂喰いの群れの向かう場所へと少し泳いでもらう。もちろん、砂喰いが急に襲いかかってきたらすぐにでも逃亡をはかるつもりだ。

「ごめんよガーラ。少し離れて群れを追ってくれ」

そう言って手綱を引けば、しぶしぶとガーラは従順に動いてくれた。
さすがはガーラ。恨むならこの御主人の性格を恨んでくれ。

もう一度西に向けて方向転換すると、長々と続く砂喰いの群れの側面に沿ってガーラは進みだした。
群れの行進で出来た赤い砂埃の道を辿りながら、ライは赤く霞む砂漠の彼方に目を凝らす。

西に向かえば向かうほど、風が強い。
横薙ぎに砂漠を削る悪戯な熱風は視界を遮るばかりだ。ただでさえ気が狂うほど暑いというのに。…せめて視界の悪さくらい、少しは気遣ってもらいたいものだ。



砂漠が優しい一面を見せることなど、まず無いけれど。