亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


「最後にって言ってもなぁ………あ、じゃあ一つだけ。フォトは知っているか分からないけど…今日の夜明け前頃、路地裏から見付かった死体の事、知ってるかい?」

「…ああ、知ってるよ。死後数日は経っていたっていう変な腐乱死体でしょう?役人が運んでいるところをオイラ、見てたよ」




今朝方、路地裏から男の変死体が見付かった。
早朝だというのに、好奇心に駆られた物好きな野次馬達の群れが、しかめっ面の役人が運ぶ死体を見物していたのだ。

腐乱していた死体は所持品や服装から考察するに、それなりに名の知れた情報屋の男だった。
男を死に至らしめた凶器は不明だが、目立った痕跡が一つだけ。


額に空いた、小さな風穴。


その変死体はついこの前、ライとサナが偶然にも見付けたそれだった。



それが今朝になってようやく役人に見付かり、公に晒されたらしい。





公になることで、額の風穴や未だ見えない敵の存在が少しは分かるかもしれない。
ライは死んだ情報屋の男の事を探ることで、その延長線上に敵の正体を知ることが出来るかもしれないと考えていた。

そのキーアイテムが、死体が握り締めていた緑色のボタンだ。


小さなボタンは、今もライの懐でひっそりとなりを潜めている。



「オイラ、あの情報屋のおじさんと前に一度話したことがあってさ。死体の服装を見て、あの時のおじさんだって直ぐに気が付いたよ。ちょっと前にも見掛けたのに………まさか、死んじゃうなんてね」

「…知り合いだったのか?………その情報屋が最後に受けていた仕事とか…何か知らないか?些細な事でもいいから!」


顔見知りで、生前の…恐らく殺される間際の男を見掛けたと言うフォトに、目を丸くしたライがテーブルに身を乗り出してその話の先を促す。

若干蚊帳の外状態になっていたユアンは、ひそひそと声を潜める二人から視線を外し、無言で店の外を眺めていた。

薄い赤を帯びた円らな隻眼が、窓の外の何かを捉えた途端、一瞬鋭く細められた。