「身近な危険なんて、そこら中に転がっているじゃないですか、何を今更。…僕はね、やりたい事があれば障害構わず突っ走る人間でしてね。そのためには手段を問わないんですよ」
少しは機嫌が直ったのか、一瞬意地悪い笑みを浮かべてフォークの柄で少年の額を軽く小突いてきた。
夢を抱く子供の心を忘れないユアンに、やれやれとライは呆れ顔を向ける。
気持ちは分からなくもないが…危険を省みないのはよくない。年上に向かって説教じみた台詞を吐くのは気が引けるが、ライは一度咳払いをして再度口を開いた。
「あの…先生の好奇心には感心を通り越すものがありますけど……その狩人とかいうの、どのくらい危険なのか僕も耳にはしています。本当に気を付けて下さいよ………先生は僕等にとって必要な方なんですから…」
オルディオのためにも、と内心で呟くライの困り顔に、ユアンは苦笑を浮かべた。愛用のフォークの汚れを拭い、丹念に磨いて懐に収める。
「…そんなに心配せずとも大丈夫ですよ。こう見えて僕はそれなりに戦えますし。狩人の行動パターンや地理だって分かっているつもりです。僕は一応デイファレトの出身ですからねー」
「…えっ…!?先生って異国の人だったの!?…だから肌とか髪の色が薄いんだね!その赤っぽい目もデイファレトではよくあるの?」
「目?ああ…いいえ。これは僕がアルビノという…まぁ、ちょっとした特異な体質だからです。それはさて置き、です…」
まだまだ訊き足りない様子の、好奇心に満ち溢れた少年の眼差しをバッサリ切り捨て、ユアンはフォトにずいっと顔を近付けた。
内緒話の様に、テーブルの上に二言三言、ユアンの囁き声がそっと乗り上がる。
「………嫌な思いをしたくなければ、即刻手を引きなさい。…敵も馬鹿じゃない。平穏な暮らしを望む者は、こういった世界に長居をしてはいけません。…奴等は、女子供だろうが老人だろうが……こんな放浪医者だろうが、振り下ろす剣に僅かな躊躇いもありませんよ」


