亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~



「それと、例の計画の事です。隣国が感づいているかどうかは不明ですが……具体的な内容はさておき、計画自体が三槍に知られた様です。…昨夜、城下の資料庫に侵入された形跡がありました。計画に関する記録簿だけが紛失していた様でしてねぇ」


資料庫だけはザルの警備だったのか、それとも侵入者が余程の手練れだったのか知らないが、今朝になって資料庫が荒らされていたのを兵士が発見した。

資料庫に保管されているものは全て廃棄予定のものだが、それでも資料は資料である。
きちんと整理整頓をし、常ならば綺麗な資料室がある筈なのだが……一夜明けたその部屋は、足の踏み場も無いほどに荒らされていたらしい。



一番身近な害虫、目の上のたんこぶである三槍に計画の存在が知られてしまった。
詳細な内容までは判明出来ていないにしろ、今後は三槍がより警戒してくるのは間違い無い。もしかしたら探りを入れたりと邪魔をしてくるやもしれない。
こちらも充分に対策を練るべき…なのだが。


三槍、という名前を聞いた途端、リイザは鼻で笑った。
ウルガの腹部に向かって切れのある蹴りを繰り出しながら、リイザは口を開く。



「……三槍など…奴等がどうしようと構わん。…元々俺は、三槍などに最初から興味など無い。構ってやっていたのは愚かな父上だったのだからな。………お前が遊んでやればいいだろう、ケインツェル」


言い終えるや否や、リイザの蹴りを寸前で防いだウルガに視線を移し、構え直した短剣で素早く切りかかった。

しかし、相変わらず防ぐ一方で攻めの体勢に入らないウルガに、リイザは意地の悪い笑みを浮かべる。


「―――お前は甘いな、ウルガ。バリアン兵士一の戦士が手加減など……虫唾が走る」

「………いえ、その様な、ことは…」

微かな狼狽を見せるウルガの目前で、また明るい火花が散った。

主君相手、しかも真剣を用いた稽古なのだ。手加減をするのは当たり前なのだが、リイザはそれが気に食わないらしい。