亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

何でも無い事の様にケラケラと笑うケインツェルに、ウルガは険しい表情を向けた。…だが、意識は俊敏な動きで距離を詰めてきたリイザに向けられる。

「これが楽しいのですよ!どちら様が書いているのか知りませんが、なかなか辛辣な手紙を書いて私を楽しませてくれる!」

そう言って三段階の笑い声を上げる陰険眼鏡を、ウルガは忌々しいとばかりに舌打ちをして横目で睨んだ。
文通…と言っても、フェンネルから届けられる書状には羊皮紙の真ん中に一文のみ……たった走り書きの様な一言しか書かれていないのだが。これに返事をするのが、最近のケインツェルの楽しみの一つであるらしい。
国王であるリイザに宛てたものではないためか、リイザ本人は全く興味が無いらしく、ケインツェルに丸投げの状態だ。

家臣である同士の奇妙な手紙のやり取りは、半月に一つ、遅くて月に一つの割合で、まだ片手で余る程の回数だが、この飽きっぽいケインツェルが続けるのだ。一文だけの手紙が余程面白かったのか……もしくは、手紙の相手に興味が湧いたのか。
どちらにせよ、リイザが黙認するのならば文句を言っても仕方ない。




何十回目になるのか分からない攻防が続けられる中、先程の刃こぼれが予兆だったのか、リイザのダガーがとうとう断末魔の叫びと共に折れた。

双方の挟んだ宙を回転する刃。
だが、死んだ刃はそのまま野放しにはされないらしい。


すぐさま腰のベルトから刀身が大きな曲線を描く短剣を抜き取ると、刹那………重力に従って落下していた折れた刃に向かって、素早く短剣を振るった。


その強力な一撃を受けて跳ね返った刃は、次の瞬間には飛び道具へと変化する。
目にも止まらぬ速さで空を切り裂き、それはウルガの胸に危うく突き刺さるところだった。

反射的に身体を捻って紙一重で避けられたが、予想だにしていなかったこの不意打ちには、ウルガも一瞬冷や汗をかいた。





ウルガを貫き損ねたダガーの刃は、その速度を保ったまま…後方の太い柱の傍らに佇んでいた小さなシルエットに、真っ直ぐ飛来した。