亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~






(―――…?)




横薙ぎに吹いていく風は、この広大な砂漠の世界を走る支配者であり、そしてその足音はただの雑音でしかない。
単調に思えて複雑な表情を見せるそれは、その都度異なる音色を響かせている。

だから、たとえ今日の風音が昨日と違う音色であっても、それは不思議ではないのだけれども。


………その雑音に混じる僅かな違和感の塊を、ライは反射的に察知していた。

―――違和感。
それが一体何なのか分からないが…無意識の内にライは身構え、周囲の様子を窺っていた。

(………何だ?………何か……違う音が、混じっている…?)



…微かだが、風に混じって何か違う音色が流れているのだ。
まるで、鳴き声の様な…。

目下のガーラも、やや緊張気味に大きな目玉で辺りを見回している。
見渡す限りの世界には、赤い砂漠しか広がっていないのだが…。





………何か、いる。







…いや、違う………何かが………。


























「―――ガーラ、後退するんだっ……何か来る!」



咄嗟に叫んだライの言葉に、ガーラは直ぐさま四肢を機敏に動かし、突然砂地にグッと体重をかけたかと思うと………次の瞬間、その巨体は空に向かって大きく跳躍していた。

…この岩の塊の如き身体の何処に、こんな跳躍力が秘められていたのか。
赤い砂を纏った巨大な影はそのまま綺麗な孤を描き、先程いた場所から約十メートル程後方に向かって、地響きと共に勢いよく着地した。


…休む暇は無い。
巨体の落下による凄まじい重力の反動を苦も無く耐えると、ライは直ぐさま砂埃で塗れた視界を扇ぐ様に視線を走らせた。

ライの意識は、先程から風が流れてくる砂漠の彼方の東へ注がれる。


相変わらず赤い風が大地を走っていくばかりの光景が広がっていたが………その中に溶け込む様に潜む存在を、ライの目は見逃さなかった。








断続して吹き渡る、一陣の赤い風。
少しの間を置いて次に吹いてきたその中に……。









黄色い目玉の群れが、蠢いていた。