リイザが一方的に攻めている武術の稽古が続けられる中、ケインツェルは命じられた通りに報告書を読み上げる。
拡散する火花の瞬きが目と鼻の先を掠めていったが、切れ長の瞳は狼狽えもせず、ただ銀縁眼鏡が生意気にキラリと光っただけだった。
「ええ、御近所さんの報告から致しましょうか。…青の方、デイファレトですが、先日我が国との国境に置いたバリアン兵士には即座に反応を見せたようです。あちらは軍部がありませんが、代わりに野生の軍部…狩人とやらが現在警備に置かれています。常時国境に立つバリアン兵とは違い、いつもいる訳ではありませんが…藪の中で目を光らせているのは確かです」
現に、デイファレトの領内に一歩でも足を踏み入れたバリアン兵は、狩人らしき者達の弓矢によって数人射殺されている。
厚い雪布団がまだ残る深い山。白い世界の中、姿は見えねど獣の如く息を殺した者達の気配が隠れているのが分かる。
影も形も無い、しかし隠す気の無い確かな殺意は、しんと静まり返った銀世界ではさぞや不気味なものだろう。
火花が散りそうな敵対心を向けながらも、互いにそれ以上の干渉は無いため、今のところは一触即発な事態には至っていないという。恐らく、デイファレト王自身がそれを望んでいないせいだ。
二枚目の羊皮紙を捲るケインツェルの指先を、刃こぼれした刃の破片が掠めていった。きめ細かい肌にじわりと浮かび上がる短い赤の線を、ケインツェルは軽く一舐めして何食わぬ顔で読み上げ続ける。
「対策はそれのみの様で、デイファレトにそれ以上の動きは見られません。同様に、反対側の緑の国も国境沿いに騎士団を配備させております。こちらも目を光らせているだけに止まっている様です。しかしながらこの事に関してフェンネルから書状が届いておりましてねぇ………書状は女王陛下直々のものではなく、あちらの側近かそこらの身分の人間からでしたので、恐れながら私が返事を致しました。今も個人的に軽い文通を少々続けております」
「………返事だと?…貴様…独断で勝手なことを…」
拡散する火花の瞬きが目と鼻の先を掠めていったが、切れ長の瞳は狼狽えもせず、ただ銀縁眼鏡が生意気にキラリと光っただけだった。
「ええ、御近所さんの報告から致しましょうか。…青の方、デイファレトですが、先日我が国との国境に置いたバリアン兵士には即座に反応を見せたようです。あちらは軍部がありませんが、代わりに野生の軍部…狩人とやらが現在警備に置かれています。常時国境に立つバリアン兵とは違い、いつもいる訳ではありませんが…藪の中で目を光らせているのは確かです」
現に、デイファレトの領内に一歩でも足を踏み入れたバリアン兵は、狩人らしき者達の弓矢によって数人射殺されている。
厚い雪布団がまだ残る深い山。白い世界の中、姿は見えねど獣の如く息を殺した者達の気配が隠れているのが分かる。
影も形も無い、しかし隠す気の無い確かな殺意は、しんと静まり返った銀世界ではさぞや不気味なものだろう。
火花が散りそうな敵対心を向けながらも、互いにそれ以上の干渉は無いため、今のところは一触即発な事態には至っていないという。恐らく、デイファレト王自身がそれを望んでいないせいだ。
二枚目の羊皮紙を捲るケインツェルの指先を、刃こぼれした刃の破片が掠めていった。きめ細かい肌にじわりと浮かび上がる短い赤の線を、ケインツェルは軽く一舐めして何食わぬ顔で読み上げ続ける。
「対策はそれのみの様で、デイファレトにそれ以上の動きは見られません。同様に、反対側の緑の国も国境沿いに騎士団を配備させております。こちらも目を光らせているだけに止まっている様です。しかしながらこの事に関してフェンネルから書状が届いておりましてねぇ………書状は女王陛下直々のものではなく、あちらの側近かそこらの身分の人間からでしたので、恐れながら私が返事を致しました。今も個人的に軽い文通を少々続けております」
「………返事だと?…貴様…独断で勝手なことを…」


