両者とも沈黙を貫く代わりに、刃の奏でる荒々しい音色を響かせる。
しばしの間、謁見の間はそれらの単調な音ばかりが続いていたが、数秒の間を置いて、ようやっと彼の主が口を開いた。
「―――読み上げろ」
直後、キンッ…と紅蓮の火花を散らしたダガーの叫びが一際大きく鳴り響いた。
飛び散った熱い光の飛沫の向こうで、その声の主であるリイザが弾かれた自分の刃を一瞥し、不敵な笑みを浮かべる。
無駄な筋肉が付いていない若々しいしなやかな身体は、弾かれて後方に着地したその足で、すぐさま大理石の床を蹴り上げた。
再び構えられた鋭いダガーの刃先には、体格の良い長身の男…ウルガが同様にダガーを構えていた。
獣の如き鋭い彼の双眸は、主君を前にしていながら殺気にも似た明らかな敵意を孕み、眼前に迫るリイザの動きをすぐさま捉えた。
大きく振りかざされる相手の刃の流れを感覚で掴み、先程と同様に弾き返す。
―――ガキンッ…と、鈍い金属音が鼓膜を激しく叩いたが、研ぎ澄まされた戦士の感覚は微動だせず…常に四方八方を警戒して見渡している彼の目が相手の蹴りを映した時には、ウルガの身体は反射的に防御の体勢に入っていた。
…恐らく頭を狙っていたのだろう、リイザの繰り出してきた回し蹴りは、ウルガの腕の固い筋肉にグッと食い込むに止まる。
(………っ)
一見軽そうな蹴りは、その細身から出されたとは思えない程の重み、そして速さを兼ね備えており、受け止めた瞬間ウルガは微かに顔をしかめた。
大して勢いもつけていないというのに、この瞬発力は何なのだ…と、ウルガはまだ成人にもなっていない、目の前の若き主の武術の上達振りに内心驚きを隠せないでいる。
本の数年前からこうやって謁見の間にてウルガが直々にリイザの稽古の相手をしているのだが、元々好戦的な性格である事と武術のセンスが抜きん出ていたためか、リイザはそこらの兵士では相手にならないほど強くなっていた。
まだまだウルガには勝てないようだが、いつ追い越される事だか。それも時間の問題だろう。
なにしろこの若きバリアン王…主は……稽古でも、常に殺しにかかってきているのだから。


