自他共に変人で変態だと認めているケインツェルという男は、武術に興味が無く…というよりも、虚弱体質故に運動自体が無理なため、縁もゆかりも無いものだったが、それを傍観するのは大変好きであった。


退屈を何よりも嫌う彼は、いくら出来の良い芝居でもその先の展開が容易く予想出来るならば、それを退屈だと評価する。 つまり、回転の早い自分の頭でも予想出来ない事…未曽有の展開を常に望むのだ。

故に、勝敗の分からない武術を見るのが好きだった。次の一手、その次の一手と、互いに臨機応変に様々な技を繰り出す攻め合い。
武術に関しては素人だからこその楽しみがそこにあり、ケインツェルから言わせれば、戦士達は盤上の駒…それも見ていて飽きない生きた駒だ。




何よりも、戦いは生死という極限の戦利品を賭けるもの。
生にしがみつく本能のまま、死に物狂いで牙を剥き出しにする攻防を見るのが、彼にとって極上の暇潰しなのだ。


ただの暇潰し、でしかないのだ。






彼にとっての快感というものは、人間の三大欲求から斜め上か後ろに外れたものらしい。
とりあえず黙っていればなかなかの美丈夫であるため、女には苦労しないのだが…色んな意味で肥えすぎている彼の目には目障りな羽虫か埃としか映らない様だ。否、そもそもきちんと見ているのかさえも怪しい。
女の裸体よりも、その中の臓物を見て興奮を覚えると言うのだから、もう色々と末期なのだろう。



ケインツェルの望む毎日は、常に非日常でなければならない。
そんな彼の欲しがる、骨の髄から湧き出るゾクゾクとした快感を、つい数年前まで…かの落ちぶれたバリアンの老王の側近として仕えていた時代までは、久しく感じていなかった。

妙に鋭い犬歯が覗く、形のいい唇から漏れる彼の吐息からは、常に「つまらない」と誰にも聞こえない呟きが紛れ込んでいる事など、誰も知らなかった事であろう。

見ているだけで癪なニヤニヤとした彼の顔や、聞いているだけでやはり癪な彼の声に一々関心を向ける者などいなかったのだから。