灼熱を浴びた一際大きな一陣の風が大地を舐めるように吹き渡り、ライの前を素通りしていった。
一瞬だけ赤い砂埃で覆われた視界に、ライは反射的に目を瞑る。
足元の砂地に姿を隠しているガーラが、砂中で不意に盛大な鼻息を噴かした。荷袋から顔だけを覗かせているティーラも、何やら落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見回しているではないか。
人間では感じ取れない僅かな風の表情の変化を、研ぎ澄まされた獣の感覚ははっきりと感知しているらしい。
(………風が強い。……砂嵐でもくるのかな…)
そういえば、朝方よりも風が強くなってきている気がする。砂埃の舞い方も若干大きいし、吹き方も断続的だ。
何処までも続く地平線の彼方は、いつもより視界が悪い。
……今夜辺り、大きな嵐がくるのかもしれない。早ければ、日暮れ前には吹くかもしれない。そうなると厄介だ。
ライはほぼ毎日、隠れ家まで巡回しながら帰路につくのを日課としている。だが大きな嵐が近付いているとなると、話は別だ。無理をすれば、嵐に呑まれて帰り道が分からなくなる恐れがある。
今日はこの広大なエデ砂漠の西側を回って帰ろうと思っていたが…迫りくる天災に挑む気などさらさら無い。
ここは大人しく真っ直ぐ帰るのが一番だろう。
心なしか、ガーラの足取りも遅い気がする。この大きな猛獣も同じく、嵐は避けたい様だ。
見掛けに反して少々臆病な相棒の反応に苦笑しながら、ライは手綱を引いて一旦その場に停止した。
再度方位磁石に視線を移し、今まで目指していた西側から隠れ家のある方角へと進路を決めた。
「…よし、今日はガーラのためにも早く帰ろうか。…このティーラにも何か食べ物をあげないといけないしね」
そう呟けば、応える様に荷袋の隙間からか細い鳴き声が上がった。
気を取り直し、ガーラに方向転換の指示を与えようとライは口を開いた。
…だが。
…舌の上まで出かかっていた声を、不意にライは飲み込んだ。


