彼女の頭の天辺から爪先まで目を走らせ、怪我をしていないことを確認すると、そこでようやくライは安堵の息を漏らした。
同時にずっと彼女の両肩を掴んでいたことに気が付き、慌てて手を離す。
「…あの…怒鳴ってごめんよ。僕が…きちんと見ていなかったせいだね…。……でも、今度からは勝手に独りで動いたら駄目だよ、サナ。…分かる?僕から離れたら駄目だってことだから…。…………ハハ……分からないよね…」
「………う?」
幾ら説明しても当然ながら、コテッと首を傾げるサナに溜め息混じりに苦笑を漏らす。
そもそも全く言葉を理解していない彼女に、お説教が効く筈がない。
とにかく、無事なだけでも本当に良かったとライは心から思う。
サナがいなくなったと分かるや否や、「サナアアアアアアァァ!?」と人目もはばからず、恥ずかしげも無く、躊躇も無く彼女が消えた人混みにライは飛び込んだのだ。
人気の無い小道はそこら中にある中、ほとんど勘だけを頼りに猪突猛進を続けていた先でサナを見つけた。
落ち着いて考えてみれば、これは奇跡だと思う。
ゴミ山が密集する場所でなんとかサナを探し出したはいいが……傍にいた全身黒ずくめの人物を見た直後、反射的にライの手は腰元にあったダガーを投げていた。
表の通りにいる人間らと違い、ここら一帯の裏通りを彷徨く人間にはろくな者がいないからだ。そのほとんどが頭のネジが取れた薬物中毒者や、人身売買を生業とする裏世界の商人達ばかり。
通り魔の様な者もいるようで、誰に刺されたのか分からない死体が見つかることも珍しくはない。
その類の人間かと思い、威嚇も兼ねて放った刃だったが……なんともまぁ腹立たしさを覚える程実に軽やかな身のこなしで避けられてしまった。
そのままあちらから退避してくれたから良かったが、そうでなかったら恐らく今頃対峙していたことだろう。
(………奴隷商人…では無かったな。…もしそうならとっくの昔にさらわれていただろうし……サナに何か話しかけている感じだったけど…)


