亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~



細い一本の青鈍色の閃光が、空を切り裂く微かな吶喊を上げて飛来する。
気配を隠してはいるものの、滲み出るあからさま敵意はそのままで、まだまだアサシンには程遠い幼稚な攻め手に思えて……思わずフードの内で苦笑を漏らすと、黒ずくめの人物は軽い身のこなしで真っ直ぐ飛んできたダガーを避けた。

固い刃が背後の土壁に突き刺さる鈍い音を耳にすると同時に、先程自分達が歩いてきた小道の奥から一つの人影がこちらに走ってくるのが見えた。

「あれは君の騎士様かい?随分とまあ好戦的で頼もしいが、こちらも知人を待たせているから、お互いおさらばといこうか」

互いに最後となる視線の交差は、慌ただしい中での本の僅かな時間。
視界の中でゆっくりと前を通り過ぎていく黒ずくめの人物の、やけに楽しそうな笑顔をサナの瞳は一瞬捉えた。
風になびくフードが捲れたのはその時だけで、次の瞬間には小道の奥へ走り去る黒いシルエットをただぼんやりと見送っていた。


…そして間を置かずに、たった今解放されたサナの視界に新たな人影が割り込んできた。

息も絶え絶えに飛び込んできたのは見慣れた青年の顔だが、それは酷く血相を変えたもので、珠の様な汗を流しながら彼は…ライは、半分怒鳴り声に近い大声をサナに浴びせた。



「―――サナ!?大丈夫!?怪我は無い!?大丈夫!?怪我は無い!?大丈夫!?変な事はされてない!?されてない!?…あれ程独りで何処かに行ったら駄目だって言ったのにもうこの子は!危ないだろ!女の子独りは本当に危ないんだよ!なんとか見つかったから良かったけど少し遅かったらどうなっていたことだか!君は普段動かないのに動いたらとんでもない行動に出るから気が気でないよ、全くもうこの子は!本当に………あぁ、ごめんサナ……何言ってるのか分からないよね…ごめん…」




他人が聞けば何処の母親だ、と突っ込みたくなる様なお説教を怒濤の勢いで叫ぶライだったが、終始彼女の頭上に沸いては消える疑問符に気がつくや、ハッと我に返った。