えらく曲がりくねった暗い脇道を抜けた先には、少しばかり広い空間が開いていた。
密集する建物に囲まれた空間には、よく分からないゴミの山が幾つも並んでおり、うるさい小蠅と酷い異臭が漂っている。
その中にあるゴミ山の一つの傍に、黒ずくめの人物はいた。静かに佇むシルエットの足元に、長い尾を揺らめかせるティーの姿もある。
そこら中足の踏み場も無い場所を強引に踏み場にし、固かったり柔らかかったりと何だか分からない感触を靴底に感じながら、サナはよいしょよいしょと彼等の元に近寄っていった。
そこだけが、やけに蠅の集り具合が多い。
距離を詰めれば詰める程、不愉快極まりない羽音が連続して耳を掠め、視界に幾つもの小さな黒点が飛び交う。
しかし不快感を覚えないサナは一切の躊躇も無くそのまま直進し、ようやくゴミ山の前まで歩いてきた。
黒ずくめの人物は、始終その場に立ったままだった。すぐ傍までサナが近付いてきても、こちらに振り向こうともしなければ声も掛けてこない。
…手を伸ばせば届く距離に佇むその人を、サナはぼんやりと見上げた。
そう、見上げなければならない程、その人物の背丈は高かった。サナよりも頭一つ分以上の高さはあるだろう。しかし全身マントで覆っているため、それ以上の事は全く分からない。
一向に動かないフードを飽きもせずじっと見上げていたサナだったが……時折足元から聞こえてくるティーの鳴き声以外は無音が続いていた静寂な世界に、久方振りの声が響きわたった。
聞こえてきたのは、サナの耳も初めて聞き取る全く知らない声…それは黒ずくめの人物が漏らしたものだった。
「―――御覧よ君。舞台は幕を開け、物語は当の昔に序章を既に越えているらしい」
不可思議な長い言葉が紡がれると同時に、マントから覗く黒ずくめの人物の手が、ふと…足元を指差した。
言葉の意味を理解出来ぬまま、サナはつられて人差し指が示す足元を見下ろす。


