鈍い光沢がサナの黒髪を掻き分け、無防備な背中に触れるか否かという、その時だった。
ティーのいる小道の先に…第三者のシルエットが、不意に脇道から音も無く現れたのだ。
それまで地面を嗅いでいたティーは、ゆっくりと歩いてきた人物に顔を上げて鳴き声を上げた。
「…ニャー」
…まさか、他に誰かがこの小道を通りかかるなどとは思ってもいなかったらしい。
何の気配も無く姿を見せた全身黒ずくめの存在に、老婆は意表を突かれたのか、思わずその場でナイフを落としてしまった。
途端に空っぽの殺意を無くした刃は、重力に従いサクッと柔らかな砂地にめり込んだ。
通りすがりの第三者は、足下の子猫を見下ろしているのか、はたまたサナと老婆を見つめているのか知らないが、小道の真ん中で足を止めたまま…何をするでもなく、ただ佇んでいる。
…ただ、その深く被ったフードの内から、やけに鋭い視線がこちらに注がれている気がするのだ。
そして同時に感じるのは、奇妙な……威圧感。
「…う……うぅ…」
例えようの無い張り詰めた緊張感の中。
僅かな時間を沈黙に捧げた後、不意に老婆はサナから手を離したかと思うとゆっくり後退し始めた。
落としたナイフも拾わず、とにかくここから逃げたいとでもいうかの様に、警戒しながら少しずつ背後の暗がりへと身を投じていった。
砂を掻く老婆の足音が、次第に脇道の奥へと遠ざかっていく。
解放されたサナが不思議そうに背後を振り返った時には、老婆の気配など既に何処にも無かった。
「ニャー」
老婆が姿を眩ました直後、黒ずくめの人物は止めていた足を前へ踏み出し、別の脇道へと歩を進めだした。
その後を、ティーが甘えた鳴き声を上げながら追い掛ける。
「……にゃーにゃ…」
そして勿論のこと、再び走り去っていったティーを追うべく、サナも覚束無い足取りで後をついて行った。
更に人気の無い暗がりの奥へ……黒ずくめの人物を先頭に、子猫と少女が続いていく。


